握力は“脳の元気”を映すサインになり得る

握力はどのように認知機能に影響するのでしょうか?
この問いに答えるため、研究チームは中国の広西チワン族自治区で調査を行いました。
2024年11月、この地域の3つの都市に暮らす60歳以上の高齢者382人が研究に参加し専用の握力計を使い、ぎゅっと力いっぱい握ってもらい、その値を計測しました。
次に調べたのは、「日常的にどれくらいの範囲まで外出して活動しているか」ということです。
専門的には「生活圏」と呼ばれますが、簡単に言えば、自宅から外にどれくらい積極的に出かけられているか、ということです。
さらに、参加者が普段どのくらい気分が落ち込んでいるか(抑うつ傾向)や、記憶力や判断力など認知機能の状態を確認する簡単なテスト(AD8という8問の質問で調べます)も実施しました。
その結果、まずわかったのは、「握力の強さ」と「認知機能の高さ」には明らかな関連がある、ということでした。
握力が強い人ほど、認知テストの点数が良く、普段から活動範囲が広く、気持ちも明るい傾向がありました。
反対に、握力が弱い人は、外に出る機会が少なくなりやすく、気分が落ち込む傾向があり、認知テストの点数も低めでした。
ただ、ここで終わりではありません。
研究者たちは、「握力が弱い」ことと「認知機能が低い」ことの関係がどのような仕組みで成り立っているか、詳しく分析しました。
その結果、握力が弱いことと認知機能が低いことの関連のうち、約56.9%は「直接つながっている」と考えられました。
これはつまり、握力が弱くなることと認知機能が低下することが、直接的に関係している割合です。
一方で残りの約43.1%は、握力が弱くなることで間接的に起きるさまざまな変化を介して認知機能に影響する、というものでした。
なお間接的な影響の内訳は次のようになりました。
約17.5%は「握力が弱まる→生活圏(外出や活動範囲)が狭くなる→認知機能が低下する」という経路です。
また約17.1%は「握力が弱まる→気分が落ち込む→認知機能が低下する」という経路でした。
さらに興味深いのは、この二つの経路がつながった経路です。
「握力が弱まる→生活圏が狭まる→気分が沈む→認知機能が低下する」という二段階の経路だけでも8.5%を占めることがわかったのです。
つまり握力が弱くなると、外出や活動が減り、その結果、気分も落ち込んでしまい、それが脳の働きにまで影響を及ぼす、というドミノ倒しのような連鎖が、一部の人では確かに起こっている可能性が示されたのです。
もちろん、こうした調査結果は統計モデルを用いた分析に基づいています。
実際に握力が低いことが原因で、認知機能が低下したことを証明したわけではありません。
しかし、この結果は握力というとてもシンプルな指標が、高齢者の健康状態を評価する上で有用な手がかりになる可能性を示しています。
将来的には、高齢者の健康診断において、「血圧」や「血糖値」と並んで「握力」を測ることが当たり前になる日が来るかもしれません。

























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