老化は「修理できるかもしれない」時代へ

研究を主導した山下真幸博士(セントジュード小児研究病院)は、将来の展望についてこう語っています。
「造血幹細胞の機能を維持する治療法の開発につながり、化学療法や造血幹細胞移植を受ける患者さんの回復の改善に貢献できる可能性があります。ミトコンドリアを保護する薬や、ネクロプトーシス経路を調節する新たな種類の薬剤の開発につながるかもしれません」
すでにMLKLの上流で働くRIPK3という酵素の阻害剤(UH15-38)がマウス実験で改善の傾向を示しており、この経路を標的にした薬の開発は絵に描いた餅ではなさそうです。
ただし注意点もあります。
MLKLには本来の仕事──ウイルス感染した細胞を破壊する──という大事な役割があります。そのため単純に「MLKLを止めれば若返る!」とはいきません。
実際、自然界にはMLKLの機能を失った動物がいます。ハダカデバネズミです。
この動物は進化の過程でRIPK3とMLKLの両方の遺伝子に機能を失わせる変異が入り、ネクロプトーシスという仕組みを事実上失った珍しい種です。
がんにも加齢にも驚異的な耐性を持つことで有名ですが、一方でヘルペスウイルスなどのウイルス感染には極端に弱いことが知られています。
つまりMLKLを完全にオフにすると、老化には強くなるけど感染症に弱くなる、というトレードオフがある可能性があるわけです。
それでもこの研究が画期的なのは、老化を「避けられない遺伝子の運命」ではなく「修理可能な電池の故障」として捉え直す視点を私たちに与えてくれたことでしょう。
少なくともマウスでは、MLKLが幹細胞のミトコンドリアをこっそり壊していました。あなたの骨髄の奥でも、同じことが起きているかもしれません。
「老い」は宿命ではなく、メカニズムだった。犯人が特定された以上、対処法が見つかる日も遠くないかもしれません。
そんな時代が、少しずつ近づいています。

























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