「死のタンパク質」が血を老化させていたと判明――ミトコンドリアのエネルギーを奪う
「死のタンパク質」が血を老化させていたと判明――ミトコンドリアのエネルギーを奪う / Credit: Dr. Masayuki Yamashita from The University of Tokyo, Japan
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「死のタンパク質」が血を老化させていたと判明――ミトコンドリアのエネルギーを奪う (2/3)

2026.04.29 19:00:50 Wednesday

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死のタンパク質は血の幹細胞を老化させていた

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Credit: 東京大学医科学研究所

MLKLを「オフ」にすると老化の進行が遅くなった

次なる疑問は当然、「じゃあMLKLを止めたらどうなるの?」でしょう。

研究チームは、MLKLの遺伝子を丸ごと欠損させたマウスを18カ月齢まで飼育し、通常のマウスと比べました。

結果はかなり劇的でした。

まず、通常の老化マウスではリンパ球の産生がガクンと落ちるのですが、MLKLなしマウスではこの低下が有意に食い止められていました。

カレーしか作れなくなるはずのシェフが、まだイタリアンも作れている状態です。

さらに、老化の指標として知られるDNA損傷マーカー(γH2AX)の蓄積も、MLKLなしの幹細胞では大幅に少なくなっていました。

決定的だったのは移植実験です。

加齢したマウスから幹細胞を取り出して、血液系を空っぽにした別のマウスに移植し、「ちゃんと血液を作り直せるか?」をテストしました。

すると、通常の老化幹細胞は再生能力もリンパ球を作る力もガタ落ちだったのに、MLKLなしの老化幹細胞は、通常の老化幹細胞よりはるかに高い再生能力を発揮したのです。

MLKLという妨害工作員を排除するだけで、幹細胞は老化のダメージからかなりの程度守られたわけです。

あらゆるストレスの「合流地点」だった

この研究がさらにスゴいのは、異なるタイプのストレスが最終的にぜんぶMLKLの活性化に集約されることを示した点です。

研究チームは細胞にとってストレスになりそうな、炎症を起こしたり、抗がん剤を投与したり、移植実験やがん化ストレス、さらには自然な加齢などさまざまな条件で調べてみました。

すると驚くべきことに、調べたどのストレスでも造血幹細胞でMLKLが選択的に活性化し、多くのケースでMLKLの欠損によって幹細胞の機能低下が抑えられたのです。

しかも興味深いことに、MLKLの活性化は幹細胞とごく初期の前駆細胞だけで起きており、もっと分化の進んだ骨髄球前駆細胞やリンパ球前駆細胞ではほとんど起きていませんでした。

なぜ幹細胞だけが狙い撃ちにされるのか?

研究チームはこう考えています──造血幹細胞はもともと「簡単には死なないように」設計されており、強いアポトーシス抵抗性を持っています。

だからMLKLが活性化しても、普通の細胞のように「壊れて死ぬ」ことにはならない。

しかしその代わりに、死にきれなかったMLKLがミトコンドリアに向かってしまうのです。

いわば「死なないからこそ、ゆっくり老いる」という皮肉な構図が生まれていたわけです。

遺伝子のせいじゃなかった──「電池切れ」だった

もう1つ、この研究で意外だった発見があります。

MLKLによる老化は遺伝子レベルの変化をほとんど伴っていなかったのです。

研究チームはRNA-seq(遺伝子発現を網羅的に調べる解析)とATAC-seq(遺伝子のスイッチの開閉状態を調べる解析)を行い、老化した通常マウスの幹細胞とMLKL欠損マウスの幹細胞を比較しました。

結果は──ほぼ差なし。

つまりMLKLは、遺伝子の読み取り方やDNAの構造を変えることで老化を引き起こしているのではなく、もっと「物理的」に、ミトコンドリアの膜を直接壊して充電を落とすというかなり乱暴な方法で老化を推進していたのです。

研究チームは試験管内でも検証しています。単離したミトコンドリアに、MLKLの活性化部分(N末端ドメイン)を直接ふりかけたところ、ミトコンドリアの膜電位がガクッと低下しました。逆にMLKLの別の部分(C末端ドメイン)ではこの効果は出ませんでした。

MLKLは、ミトコンドリアの膜に穴を開けたり、膜の構造を乱したりして充電を漏らしていたわけです。

これまで老化研究の多くは「DNAの損傷」や「テロメアの短縮」「エピジェネティクスの変化」──つまり遺伝情報の劣化に焦点を当ててきました。

しかし今回の研究は、そういった「設計図の問題」ではなく、「電池の故障」が老化の根本原因の1つだと示したことになります。

設計図は無事なのに、工場の電気が止まっている──だから何も作れない。

これが、老化した幹細胞のリアルな姿だったのです。

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