翼にも独自の仕掛けがあった

今回の研究では、脛骨内転筋以外にもいくつかの重要な発見がありました。
その一つが、翼の筋肉の話です。
空を飛ぶ鳥は、翼を振り下ろすときに推進力を生み出します。
振り上げるときは「次の一振り」に備えて力を抜いているだけで、いわば休憩タイムです。
そのため振り上げを担当する筋肉(烏口上筋)は、比較的小さくて済みます。
ところがペンギンの場合、相手にしているのは空気ではなく水です。
水の密度は空気の約800倍。
水中では翼を持ち上げるだけでも、ものすごい抵抗がかかります。
しかも、ペンギンはその抵抗に逆らうだけでなく、振り上げでも積極的に推進力を生み出していることが先行研究から分かっています。
つまりペンギンにとって、振り上げも単なる休憩ではなさそうです。
振り下ろしも振り上げも、どちらも推進力に関わる重要なストロークです。
これは、自転車のペダルに例えると分かりやすいかもしれません。
普通に漕ぐときは踏み込む力だけで進みますが、競輪選手はビンディングペダルで足を固定し、引き上げる動きでも推進力を得ています。
ペンギンの翼も同じ発想で、上下両方のストロークをフル活用しているのです。
だからこそ、飛ぶ鳥では小さくて済んでいた「振り上げ担当」の筋肉が、ペンギンでは不釣り合いなほど大きく発達しているというわけです。
さらに研究チームは、肩まわりの広背筋にも注目しています。
ペンギンでは、この筋肉群が肩甲骨にある腱の「輪っか」をくぐってからヒレの骨に付着するという、飛ぶ鳥には見られない独特の配線になっていました。
研究チームはこの構造について、ヒレの動きに後方への推進力を加える「パドルストローク」(ウミガメの遊泳研究で最近報告された第三のストローク)に寄与しているのではないかと考えています。
普通の鳥の翼は上下にしか動きませんが、この仕掛けのおかげで、ペンギンのヒレは上下に加えて前後にもパワフルに動けるのです。
陸ではよちよち、海では弾丸。
一見矛盾するこの動きを1つの体で両立させるために、ペンギンは骨格だけでなく、筋肉の配線まで精密に進化させてきました。
あの愛らしいよちよち歩きの裏に、これほど精巧な進化の仕掛けが隠されていた——ペンギンの体にはまだ、私たちの知らない秘密が眠っているのかもしれません。



























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