凄惨なアザラシの死を生んだ『コルク抜き殺人鬼』——真犯人が、ついに姿を現した
凄惨なアザラシの死を生んだ『コルク抜き殺人鬼』——真犯人が、ついに姿を現した / Credit:Canva
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凄惨なアザラシの死を生んだ『コルク抜き殺人鬼』——真犯人が、ついに姿を現した (4/5)

2026.05.12 19:00:25 Tuesday

前ページ765頭——「氷山の一角」という恐ろしさ

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なぜオスたちは赤ちゃんを食べるのか?

なぜオスたちは赤ちゃんを食べるのか?
なぜオスたちは赤ちゃんを食べるのか? / Credit:Canva

裏ワザを学んでしまった

ここまで読むと、当然こんな疑問が湧いてくるはずです。

なぜ、わざわざ自分たちの仲間を、それも赤ちゃんを食べるのか。

何の「得」があるというのか。

まず知っておいてほしい大前提があります。

ハイイロアザラシのオスは、繁殖期の数週間、基本的に何も食べません。

繁殖期のオスにとって、最優先事項はとにかくメスのそばにいることです。

縄張りを離れて餌を取りに海へ出ようものなら、その隙に別のオスにメスを奪われてしまいます。

だからオスたちは、何週間にもわたって絶食しながら、体に蓄えた脂肪だけを燃料にして、ひたすらメスを守り続けるのです。

これは、相当ハードな戦略です。

体重は日に日に減っていきます。

ところが、ふと周りを見渡すと、そこら中に「脂肪の塊」がゴロゴロしているのです。

離乳したばかりの子アザラシは、母親の超こってりしたミルクで育てられ、体のほぼ半分が脂肪です。

丸々と太っていて、動きは鈍い。

そして何より決定的なのは、子アザラシたちが隣にいる大きなオスをまったく怖がらないことです。

繁殖地には何万頭ものアザラシがひしめき合っているのが日常風景ですから、「隣の大きな個体」を脅威と認識する理由がないのです。

つまり一部のオスにとって、子アザラシは「逃げにくい」「警戒されにくい」「超高カロリー」という、三拍子そろった非常食だった可能性があります。

たとえるなら、フルマラソンの最中に沿道のコンビニにふらりと立ち寄るランナーのようなものかもしれません。

ほとんどの選手はルール通りに走り続けます。

でもごく一部が、あるとき「寄り道」の味を覚えてしまったのです。

ラングレーさんは取材で、こう推測しています。

「まるで、特定の個体がこの行動を学習し、エネルギーを補充する手段として特化しているかのようです」

ここで重要なのは、「学習」という言葉です。

すべてのオスが共食いをするわけではありません。

おそらくごく一部のオスが、あるとき偶然この「裏技」に気づき、それ以来繰り返すようになったのです。

繁殖期のあいだ体力を温存できれば、ライバルより長くメスのそばにいられます。

結果として、より多くの子孫を残せるかもしれません。

残酷な話ですが、進化の論理としては、筋が通ってしまうのです。

種は滅びないのか?——揺らぐ「40年の前提」

ここで当然、湧いてくる疑問があります。

「自分たちの赤ちゃんを食べていたら、いずれ種が滅びるのでは?」

論文はこの点について直接的な結論は出していませんが、現時点での見立てはこうです。

結論から言えば、その心配は今のところなさそうです。

セーブル島では毎年およそ8万頭の赤ちゃんが生まれます。

2023年の調査で確認された死骸が765頭だとすると、これは全体の1%にも満たない数字です。

実際にはもっと多いとしても、この捕食がハイイロアザラシ全体の数を左右しているという証拠は、現時点では見つかっていません。

そもそも「共食い」は、生物界ではそれほど珍しい現象ではないのです。

昆虫、魚、爬虫類、哺乳類まで、分類群を問わず幅広く報告されています。

共通するパターンがあって、個体密度が高すぎるときや、餌が足りないときに起きやすいという傾向です。

セーブル島のハイイロアザラシは、1960年代から2000年代にかけて、指数関数的に数を増やしてきました。

8万頭の赤ちゃんがひしめく砂浜は、率直に言って満員電車のようなものです。

つまり研究者たちの見立てでは、共食いは種の崩壊の兆候ではなく、むしろ個体数が爆発的に増えたことで生じた「副作用」のようなもの。

過密や餌をめぐる状況が、この行動の背景にあるのかもしれません。

——ただし、この研究のインパクトは「共食いの発見」だけにはとどまりません。

ここから、もっと根の深い問題が浮かび上がってきます。

セーブル島にはかつて、ゼニガタアザラシという別種の小型アザラシが大量に暮らしていました。

ところがハイイロアザラシの個体数が急増するにつれ、ゼニガタアザラシは激減していきました。

当時の研究者たちはこの崩壊を「サメによる捕食」と「ハイイロアザラシとの餌の競合」で説明していました。

しかし、今回の発見を踏まえると——。

ゼニガタアザラシ崩壊の問題もまた、ハイイロアザラシによる捕食という文脈で再調査すべきだと、論文は提案しているのです。

論文の中で、研究チームは慎重ながらもはっきりと、こう書いています。

「過去にグリーンランドザメによる捕食とされた事例の多く、あるいはすべてが、成体のオスのハイイロアザラシによるものだった可能性がある」

犯人を取り違えたまま保全計画を立てれば、当然のことながら、的外れな対策になってしまいます。

40年分の「前提」が揺らいだことで、海洋哺乳類の管理のあり方にも、見直しを促す可能性があるのです。

次ページそれでも、科学者たちは「手を出すな」と言う

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