陸だけでなく「水中でも狩り」していた可能性
では、この1メートル級のサソリは、どのように暮らしていたのでしょうか。
現代の感覚では、サソリと聞くと乾いた地面を歩く陸上の捕食者を思い浮かべます。
しかし、P・ギガスの場合、そのイメージだけでは説明しきれません。
まず、この生物が見つかった地層は河川性の堆積物です。
さらに体には、サソリとしては珍しい、翼のような横方向への張り出しがありました。
チームは、この形態と産出環境を踏まえ、P・ギガスが完全な陸上生活者ではなく、水生または水陸両生的な生活をしていた可能性を示しています。
【研究チームによるP・ギガスの復元イメージ画像がこちら】
これは生態を考える上で重要です。
初期デボン紀の陸上生態系は、現在のように大型動物で満ちていたわけではありません。
植物はまだ原始的で、陸上にいた節足動物も小型のものが中心だったと考えられます。
もしP・ギガスが完全な陸上捕食者だったなら、1メートルもの体を維持するだけの獲物を得るのは難しかったはずです。
一方で、水辺や水中にも進出していたなら話は変わります。
当時の川や湿地には、原始的な装甲魚や大型の節足動物がいました。
巨大なハサミを持つP・ギガスにとって、こうした水中の獲物は現実的な食料になった可能性があります。
つまりこの巨大サソリは、湿地の岸辺を歩き、水中にも入り、必要に応じて獲物を捕らえる大型捕食者だったのかもしれません。
その姿は、私たちが知る砂漠のサソリとは大きく異なります。
原始的な植物が広がる湿地に、樹木のようにそびえる菌類が立ち並び、そのそばを1メートル級のサソリが泳ぎ回る。
4億年以上前の英国は、まるで異星のような世界だったのです。
今回の研究で重要なのは、P・ギガスが「新しく発見された生物」ではない点です。
むしろ150年以上前から知られていた化石が、最新の解析と比較資料によって、ようやく本当の姿に近づいたことにあります。
博物館の標本は、過去の研究の残り物ではありません。
未来の技術によって、何度でも新しい発見を生み出す宝庫です。
巨大甲殻類と思われていた化石が、史上最大のサソリへと姿を変えた今回の研究は、収蔵庫の引き出しの中に、まだ多くの「古代の怪物」が眠っていることを教えてくれます。


























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