5億5000万年前の化石から、最古の「右利き」の証拠が見つかる
5億5000万年前の化石から、最古の「右利き」の証拠が見つかる / Credit:Scott Evans / ©AMNH
paleontology

5億5000万年前の化石から、最古の「右利き」の証拠が見つかる

2026.07.13 21:00:37 Monday

人間のおよそ9割は右利きです。

箸を持つのも、ボールを投げるのも、ドアノブをひねるのも右手。

あまりに自然すぎて、「なぜ右なのか」と立ち止まって考えることはめったにありません。

では、この「右を選ぶ癖」の起源は、いったいどこまで遡れるのでしょうか。

アメリカ自然史博物館(AMNH)をはじめ、米国の複数の大学・研究機関からなるチームが、その答えのヒントを思いがけない場所から掘り当てました。

約5億5000万年前の化石から、動物界で最も古い「利き手」の証拠が見つかったのです。

驚くべきは、その正体です。

体長わずか2〜3センチほど、手も足もなく、脳があったかどうかも化石からは分からない生き物です。

研究ではそんな生物たちにも、体を曲げるときに右方向を好むという——私たちが右手を無意識に選ぶのと同じような”方向の癖”を持っていた可能性が、100点を超える化石の分析から浮かび上がりました。

筆頭著者のスコット・エバンス博士は「5億年以上前に生きていた、手も足もない動物にも、独自の”利き手”のようなものがあった可能性がある」と述べています。

もしそうだとすれば、利き手は脳や手足が発達した高等動物だけのもの、という常識が大きく揺らぐことになります。

私たちが毎日なんとなく右を選んでしまう、あの癖。

その始まりは、どれほど深い時間の底に眠っているのでしょうか。

研究内容の詳細は2026年7月9日に『Scientific Reports』にて発表されました。

Fossil reveals the earliest evidence of “right-handedness” in the animal kingdom https://www.eurekalert.org/news-releases/1135136 Ediacaran Sea Creature May Hold Earliest Evidence of Right-Handedness https://www.sci.news/paleontology/ediacaran-handedness-14908.html
Earliest evidence of behavioural handedness in the Ediacaran motile bilaterian Spriggina floundersi https://doi.org/10.1038/s41598-026-53857-x

左右の起源はいつまで遡れるのか?

左右の起源はいつまで遡れるのか?
左右の起源はいつまで遡れるのか? / Credit: Evans et al., 2026, Scientific Reports

生命の歴史に「カンブリア爆発」と呼ばれる大事件があります。

約5億4000万年前、多種多様な動物が爆発的に姿を現した出来事で、教科書にも載るほど有名なエピソードです。

しかし実は、その爆発の”前夜”にあたる時代に、すでに大きな生物たちが海の底でひっそりと暮らしていました。

エディアカラ紀(約6億3500万〜5億3800万年前)と呼ばれるこの時代は、肉眼で見えるほど大きく複雑な生物たちが、化石記録のなかに豊富に姿を現しはじめた時期です。

ただし、当時の生物の大半は、海底の岩や砂地にじっと貼りついたまま動かない暮らしをしていました。

自力で移動できるものは、ほんのわずかだったと考えられています。

そんな静かな世界の中に、ひときわ変わった住人がいました。

その名をスプリギナ(Spriggina floundersi)といいます。

体長はおよそ2〜3センチ。

平べったくて細長い体に、たくさんの節のような区切りが並んでいます。

見た目の印象としてはミミズやヒラムシに近いかもしれません。(※実際にどの動物グループに属するかは、いまだ確定していません。)

ですが、この何の変哲もない生物には、注目すべき特徴がありました。

体のつくりに「右と左」の対応があり、さらに幅広い端と細い端という「前と後ろ」らしき向きも見てとれたのです。

私たちにとって「前後・左右のある体」はあまりに当たり前ですが、スプリギナが生きていた時代には、それはむしろ珍しい体制でした。

同じ海底にいた他の生き物たちの多くは、体を輪切りにしても前後の区別がなかったり、そもそも「どちらが頭でどちらが尾か」を決められない構造をしていたりしたのです。

つまりスプリギナは、いま私たちが受け継いでいる「きちんと向きのある体」を持った、最も古い動物のひとつでした。

動物の体の設計図が、まさに整いはじめた瞬間に立ち会っている生き物とも言えるでしょう。

ここで一つ、自然な疑問が浮かびます。

そもそも「右利き」と呼べる性質は、体に「右と左」という軸があって初めて生まれるものです。

ならば、その「右と左」をそなえた最古級の動物であるスプリギナに、最初の「利き側」の痕跡が見つかってもおかしくないのではないか——?

次ページ5億5000万年前の化石は右利きだった

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

古生物のニュースpaleontology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!