5億5000万年前の化石は右利きだった

研究チームは実際に、100点を超えるスプリギナの化石を一つひとつ丹念に調べました。
体の中心軸がまっすぐか、それともどちらかに曲がっているか。
曲がっているなら、どちらへ、どのくらいの角度で曲がっているか。
地道な計測の積み重ねです。
すると、曲がり具合をはっきり判定できた標本のうち、およそ7割が、体を曲げた状態で化石になっていました。
そして曲がった標本を数えてみると、左に曲がっているものが、右に曲がっているもののおよそ2倍もあったのです。
左右が本当に半々だと仮定したとき、偶然これほどの偏りが生じる確率は、わずか0.17%。「たまたま」では片づけられない、はっきりとした偏りです。
左が多いなら、この生き物は「左利き」だったのでしょうか?
ここで重要なのはこれが化石の観測結果ということです。
化石は、生物の上面を覆った砂が、その形を写し取ってできたハンコのような”型”です。
そしてハンコを紙に押すと文字の左右が反転するように本体の左右は逆に作られています。
つまり、岩の上で「左に曲がっている」化石は、生前は右に体を曲げていたことを意味します。
この小さな生き物たちは、右へ曲がる癖を持っていたのです。
とはいえ、この段階ではまだ疑問が残ります。
自分で曲がったのではなく、海の流れに押されて曲がっただけではないのか、という可能性です。
そこで研究者たちは、同じ地層面に並んだ個体たちを見比べました。
化石が見つかった南オーストラリアのニルペナ・エディアカラ国立公園は、嵐が海底の生物たちを砂で瞬間的に覆い尽くした「天然のタイムカプセル」です。
同じ地層面の化石は、同じ嵐の堆積で埋められた仲間たちであり、生きていたときに近い位置関係がよく残されています。
もし水流が原因なら、隣り合う個体には同じ方向への偏りが出やすいはずです。
ところが実際には、すぐ隣の個体同士がまったく別の向きを向いていました。
ある個体は右へ、数センチ隣は左へ、その先はまっすぐ。
近くにいるかどうかと曲がる向きのあいだに、関係は見当たらなかったのです。
さらに、一匹の体が途中で反対方向へ折れ曲がっている例や、まっすぐのまま埋もれた個体も数多く混在していました。
水流や死後の変形が原因なら、同じ面の個体は揃って同じ影響を受けるはずですから、これらはうまく説明できません。
もう一つの可能性——体の構造そのものが左右非対称だから、いつも同じ側へ曲がるだけではないか、という見方も検討されました。
しかしそれなら、ほぼ全個体が同じ方向を向くはずです。
たとえばショウジョウバエの場合、内臓の左右が逆になる個体はわずか0.06%しかいません。
研究チームは、体の構造そのものに由来する左右差なら、これくらい厳密に方向が揃うはずだと考えました。
ところがスプリギナの場合、右と左の比率はおよそ2対1。
多数派ではあるけれど、絶対ではない。
この”多数派がやや優勢”という出方こそ、現代の昆虫やタコ、哺乳類に見られる「行動としての方向の癖」とそっくりなのです。
つまりこの偏りは、体の設計図にあらかじめ刻まれた非対称ではなく、一匹一匹のふるまいとして右へ曲がる行動が積み重なった結果だったと考えられます。
だからこそ研究者たちは、このスプリギナの化石群を、動物の歴史で知られている限り最も古い”行動の利き手”の証拠だと述べています。




























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