細菌から取り込んだ遺伝子が「代謝を操っていた」
今回の研究でさらに興味深いのは、彼らの省エネ生活が胃の大きさだけで説明できない点です。
チームは、深海性等脚類のゲノムの中に、外来の共生細菌に由来すると考えられる「ND1」という遺伝子を見つけました。
このように、別の生物から遺伝子が取り込まれる現象は水平遺伝子伝播と呼ばれます。
ND1は、細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアの働きに関わる電子伝達系の複合体Iと関連する遺伝子です。
簡単に言えば、細胞がエネルギーをどのように作り、どれくらい抑えるかに関わる可能性がある遺伝子です。
しかもこのND1は、ただ偶然ゲノムに入り込んだだけではありませんでした。
等脚類のゲノム内で重複し、非常に高いレベルで発現していたのです。
さらにチームは、ND1の働き方が「ヒストンアセチル化」という仕組みによって調整されていることも示しました。
これはDNAそのものを書き換えるのではなく、遺伝子をどれくらい使うかを調整する仕組みです。
つまり深海性等脚類は、細菌由来の遺伝子を取り込んだだけでなく、それを自分の体内でうまく使えるようにしていた可能性があります。
深海は低温で、餌も少ない世界です。
その環境では、巨大な体を維持するためのエネルギー需要と、長く生き延びるための省エネ能力の両方が必要になります。
ND1は、その矛盾をうまく調整するスイッチの一部として働いている可能性があります。
もちろん、オオグソクムシの仲間が数年間も絶食できる理由を、ND1だけで説明することはできません。
重要なのは、巨大な胃に餌をため込む体のつくり、極めて低い基礎代謝率、細菌由来のND1遺伝子、そしてその遺伝子を精密に使う制御が組み合わさっていることです。
深海の巨大等脚類は、ただじっと我慢しているだけの生き物ではありません。
彼らは、食べられるときに最大限ため込み、食べられないときには細胞レベルで支出を切り詰める、深海仕様の「超節約型ボディ」を進化させていたのです。


























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