古代ウイルスの遺物がヒトの始まりを支えていた

古代のウイルスの残骸(MLT2A1)は実際に何をしているのか?
答えを得るため研究者たちは、MLT2A1からどんなRNAが生まれているかを詳しく調べました。
すると、予想外の光景が広がっていました。
8細胞期の胚においてMLT2A1からは、からは196種類、モデル細胞からは112種類という、膨大なバリエーションのRNAが見つかったのです。
ではウイルス由来のRNAは、何をしていたのでしょうか?
「ウイルスとして復活の準備を進めていたのか?」と思う人もいるかもしれませんが、幸い違いました。
MLT2A1はヒトゲノムの中に3838個というかなりの数がコピーされて存在しますが、その約9割はウイルス自身の設計図を完全に失い、”起動スイッチ”に当たる部分(LTR)だけが単独で残った状態にあります。
(※残りの1割も、完全ではないもののほとんど失った状態にありとてもウイルスの体を作る情報になり得ません)
そのため太古の封印を破ってウイルス粒子を作り、人類を感染させる……といった物騒な話にはならないわけです。
実際に起きていたのは、MLT2A1をもとに作られたRNAが別のゲノム領域で作られた別のRNAとと”融合”するという現象でした。
こうして、異なる配列がつながった合体RNA(キメラRNA)が作り出されていたのです。
出自の異なる”居候”たちが手を組んで、まったく新しい種類のRNAを作り出していた——そんな構図が浮かび上がりました。
ではその合体RNAは何をしていたのか?
研究者たちが調べたところ、驚きの事実が判明しました。
この合体RNAはヒトDNAの特定の部分に結合して、遺伝子のスイッチをオンにする起動スイッチとして働いていたのです。
ではこのスイッチ機能を停止したら何が起こるのでしょうか?
研究者たちは、体外受精で生じた前核が3つある受精卵(3PN胚。通常は移植に使われない胚)でMLT2A1を抑えた時の影響を調べてみました。
すると、受精3日後に8細胞期に到達できた胚の割合は、抑えなかったものが47%に対し、MLT2A1を抑えた胚ではわずか16%にまで落ち込んだのです。
さらに4日後になっても発生の遅れは持続し、MLT2A1を失った胚の大半が先に進めなくなっていました。
さらにダメ押し的に、MLT2A1を抑えた胚に人工のMLT2A1キメラRNAを導入したところ、低下していた自立起動遺伝子の発現が部分的に回復したことも示されました。
これらの結果は、古代のウイルスの残骸(MLT2A1)がヒトの命の始まりにとって非常に重要な役割を担っていることを示しています。
研究者たちは、この成果は将来的には生殖補助医療を変える可能性を秘めていると述べています。
たとえば研究者の1人は「MLT2A1の発現量を測定することで、体外受精で得られた胚のうち移植後に順調に育つ可能性が高いものを見分ける手がかりになり得る」と述べています。
現在の胚の品質評価では意外に原始的で、見た目の正常さが重要な手がかりの一つとされています。
しかしMLT2A1を指標(バイオマーカー)に加えることで、自立起動がきちんと進んでいるかどうかを分子レベルで確認できるようになるかもしれません。
研究チームはまた、MLT2A1のはたらく仕組みをより深く理解することが、自立起動(ZGA)の失敗に関わる胚発生停止に対して、新しいアプローチの糸口を開く可能性があるとも指摘しています。



























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