「見えないオスの声」を、メスに聞かせてみる
この問いに答えるため、研究チームが選んだのは、音を聞かせて反応を見るという、シンプルでありながら巧妙な実験でした。
まず、研究者たちは過去の録音から、11頭のオスイルカの「自分専用メロディ」を24種類用意します。
これが「声の材料」です。
次に、対象となる17頭のメスについて、どのオスとどのくらい付き合いがあるか、どのオスがどれくらい強引な振る舞いをしてきたかといった長年にわたり蓄積されたデータを用意しました。
そして実験当日、研究者たちはボートでメスを見つけると、ボートから水中に降ろした小型スピーカーからオスの鳴き声を海中に流しました。
反応を見せたメスたちは、平均してわずか1.8秒で動き始めました。
声を聞いてから、ほぼ即座に「どうするか」を決めていたのです。
そして、その「決め方」にこそ、研究者たちが探し求めていた答えがありました。
妊娠できる時期のメスは、よく強引な囲い込み(強制的な交配行動)をするオスの声を聞くと、はっきりと長い距離を逃げたのです。
平均で33メートル以上、長いときには100メートルを超えて遠ざかったケースもありました。
一方、子育て中だったり高齢だったりして「いま囲い込みの標的になりにくい」メスたちは、同じ声を聞いてもほとんど反応しませんでした。
平均してわずか13メートル程度しか動かず、多くの場合はそのまま泳ぎ続けたのです。
イルカのメスたちは囲い込みの常習犯として知られるオスに対して「いま自分が標的になりうるかどうか」を考慮し、必要なときだけ逃げていたのです。
研究チームのドローン映像には、ある印象的なシーンが残っています。
DCHという名がつけられたメスが、別のメスと一緒に泳いでいたところ、COOというオスの鳴き声が流れました。
すると二頭はほぼ同時に、180度向きを変え、音のした方向を振り返ったのです。
やがて隣のメスは元の方向に戻りましたが、DCHはしばらく音源の方を向き続け、30秒後には元の進行方向へ戻りました。
声を聞いて、即座に身体の向きを変え、音源の方向を確かめるような一連の動きが、空からの映像にくっきりと記録されていたのです。






























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