実験的治療でHIVが消失した——三つ揃えて初めて起きた逆転

では、ウイルスを消し去った3つの治療とは何だったのか。
共著者のヘイグウッド博士は、3つの役割を水回りのトラブルに例えています。
蛇口を閉める——標準的なHIV治療薬(抗レトロウイルス療法)が、ウイルスの増殖そのものを最小限に抑えます。
ふき取り——血液中を漂うウイルスを幅広く捕まえる抗体(広域中和抗体)が、循環しているウイルスの量を減らします。
封じ込める——そして3つ目、レロンリマブと呼ばれる実験段階の抗体が、免疫細胞の表面にあるウイルスの侵入口(CCR5)にふたをして、生き残ったウイルスが新たな細胞へ入り込むことを阻止します。
蛇口を閉め、漏れた水を拭き取り、さらに部屋ごと密閉する——三段構えの攻撃です。
しかしこの研究で重要なのは、72時間後からでは、どの薬も単独では届かなかったという事実です。
増殖を止める薬だけ、抗体だけ、その2つを組み合わせただけでは、投薬を終えるとウイルスが復活する個体が次々に現れました。
投与された全頭でウイルスが消えたのは、3つをすべて揃えたグループだけです。
サシャ博士自身、組み合わせただけで効果が上がるとは予想していなかったようで「ウイルスが完全に排除されると考える理由は何もなかった。実際に試してみたら効果があった、という類の発見だ」また「理由は不明ですが、HIVは細胞表面にある特定のウイルスの侵入口(CCR5)を強く好んで利用します。その入り口へのアクセスを遮断することは、火に油を注ぐのを防ぐようなものです」と述べています。
ではなぜこの組み合わせが効いたのでしょうか?
研究チームが推測しているのは、レロンリマブが入り口をふさぐ以外の仕事もしているという可能性です。
ウイルスの侵入口となるCCR5は、もともと免疫細胞の道しるべでもあります。
体内のどこへ向かうかを、この目印をたよりに決めているのです。
この入り口を封じることで、ウイルスに狙われやすい免疫細胞が腸などの組織へ移動しにくくなり、隠れ家ができやすい場所に標的が集まらない状態になっていたのかもしれません。
増殖を止め、血中のウイルスを掃き出し、さらに標的の分布まで変えてしまう、つまり3つの薬は足し算ではなく、掛け算として効いたのかもしれません。

































