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Credit:From the dark to the light: A new genus and species of stygobiont hydrobiid (Caenogastropoda, Truncatelloidea) from southern Greece
biology

ヘルメス生誕の山で発見された透明な巻貝、新種どころか新属だった (4/4)

2026.08.26 22:45:30 Wednesday

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研究者たちが「発見」したもの

研究者たちが「発見」したもの
研究者たちが「発見」したもの / Credit:Canva

新たに発見されたの学名は、Cyllena hermes(キュレナ・ヘルメス)と名付けられました。

新しく作られた属の名キュレナは、ギリシャ神話に登場するキリニ山のニンフの名です。

彼女は、ある神を育てた養い親でした。

そして種名の「ヘルメス」は、彼女が育てたその神、オリンポス十二神の一柱に由来します。

ヘルメスはキリニ山の洞窟で生まれたと伝えられており、この貝が採集された泉は、まさにそのキリニ山の斜面から湧いています。

育てた者の名を属に、育てられた者の名を種に置くことで、山の神話をそのまま分類の階層に写し取ったような命名になっています。

ただ、ヘルメスがどんな神だったかを思い出すと、この名前は少しばかり皮肉に響きます。

ヘルメスは神々の伝令であり、翼のついたサンダルを履いて、天と地と冥界のあいだを自在に行き来する、移動と旅の守護神でした。

ギリシャ神話の登場人物の中で、彼ほど「どこへでも行ける」存在はいません。

その名前を与えられた貝は、自分の殻の形にはばまれて、知られているかぎり、ひとつの泉のまわりから出ていません。

翼のサンダルを履いた神の名を背負って、この貝は、山の内側の暗闇のほんの一角にとどまっているのです。

そして現在、確認されている唯一の住所が脅かされています。

スティンファリア盆地では、長引く干ばつが繰り返し襲い、さらに周辺地域への水の供給や農業用水のために地下水が汲み上げられてきました。

その結果、近くのスティンファリア湖は、近年はっきりと縮んでいます。

広大な地下水脈の中で、生息場所が一か所しか確認されていない生き物にとっては、地下水の量が減ったり、流れ方が少し変わったりするだけでも、種そのものが消える危険につながります。

逃げ場も、予備の集団もないからです。

そのため研究チームは予防的な立場から、この貝を国際自然保護連合(IUCN)の基準に照らして「危急」――絶滅の危険が高まっている状態にあたると評価しました。

(※IUCNによる公式認定はまだ行われていません)

もっとも、「ここにしかいない」という言葉が、この貝の性質を指しているのか、それとも私たちの側の事情を指しているのかは、まだ決めきれないところがあります。

ギリシャにある1万を超える洞窟のうち、どんな生き物が住んでいるかまで調べられたのは550ほど。足の下に広がる水路の大半を、人間はまだ覗いていないのです。

それでも、この貝が本当にユニークであるならば、そこから見えてくることは少なくありません。

この貝を狭い場所にとどめていたのは、地下水の届かなさでも、山の高さでもありませんでした。

自分の殻の形です。

そしてその同じ形が、この貝を、世界のどこにもいない存在にしていました。

それを「狭い場所を極めた専門家」と呼ぶか、「逃げ場のない絶滅危惧種」と呼ぶか。

おそらく、どちらも正しいのだと思います。

同じ一つの形が、片側では独自性を、もう片側では脆さを生んでいる。切り離すことはできません。

ヘルメスの名を与えられたこの貝は、翼のサンダルを持たないかわりに、世界に一つだけの姿を手に入れました。

逆に言えば、どこへでも行けるものは、どこにでもいるものになってしまうのかもしれません。

キリニ山の泉には、今日も水が湧いています。

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