エンジンを止めた小さな船から見えたもの

観察は、長さ5mの小さな個人の船の上から行われました。
研究者の1人が、クジラが背中を丸める動きや、もぐり方の変化を目で見て書きとめました。
海の中の様子は、手に持つ小型カメラ「GoPro」で撮っています。
撮れた映像は合わせて15分で、そのうち12分に死んだ子クジラが映っていました。
その朝の海はおだやかで風も弱く、海面の水温は20.5℃でした。
午前8時ごろ、2頭のクジラは水面でゆっくりと漂っていました。
母とみられるクジラは、背中を丸めては2分足らずの短いもぐりをくり返し、そのたびにほぼ同じ場所に浮かんできました。
追いかけたり急に動いたりといった、荒々しい動きは見られませんでした。
はじめ2頭は船から100m以上離れていましたが、ゆっくりと近づいてきて、エンジンを止めて浮かんでいた船から20mほどのところで休むようになりました。
午前8時30分ごろ、カメラは羊膜(お産のときに出てくる膜)が水中に出て、やがて水面に浮かぶ様子をとらえます。
生まれた正確な時刻は分かりませんが、午前8時から8時30分のあいだだったとみられます。
血や胎盤は見えませんでしたが、これは水の見通しが悪かったせいかもしれません。
2頭はその場を離れず、ゆっくり輪をえがくように泳ぎながら、1〜2分の短いもぐりをくり返しました。
クジラの鳴き声も聞こえましたが、母とエスコートのどちらが鳴いたのかは分かっていません。
そして午前8時45分ごろ、カメラは海の底に横たわる子クジラをとらえました。
母と比べて、子の体長は4mに満たないと見積もられています。
生まれたばかりのザトウクジラの体長は3.96〜4.57mほどとされるので、この子は少し小さめだった可能性があります。
母クジラは子の横に近づき、頭や胸びれで触れたり、1回につき少なくとも1分、目と目を合わせるようにじっとしたりしていました。
研究者たちは、母クジラの尾びれの写真を「Happy Whale」というサイトにも登録しました。
ここでは尾びれの写真をもとにクジラを見分けていて、オーストラリア東海岸だけで1万5800頭以上が登録されています。
ただ、この母クジラと一致するクジラは見つかりませんでした。
ところで、この記録にはもう1つ、研究者たちが注目した点があります。
母クジラは、死んだ子を一度も水面へ持ち上げようとしなかったのです。
いったい、なぜなのでしょうか?


























