psychology

ホラー映画が「楽しい」理由は「ストレスを瞬時に乗り越えた時の達成感」によるものだという研究

2018.11.04 Sunday

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Point
・人が娯楽のために恐怖体験をするのは、ストレスと見なされる出来事を瞬間的に校正しなおし、それを乗り越えた時の達成感を感じるためだということが判明
・人は恐怖を感じると、自身に戦うか逃げるかを差し迫る「闘争か逃走か反応」を示すが、これは未知の世界に挑み切り開いてきた人類の祖先の性質を受け継いだものだと推測される
・ホラー系の娯楽は、自分の身体の反応を安全な環境の中で観察できるので、自己認識や恐怖から立ち直る力を高めるのに役立つ

ホラー映画好きの人々は、なぜわざわざ憂鬱で恐ろしいシーンを観るために、時間とお金を費やすのでしょうか?

この素朴な疑問に10年間向き合い続けてきたのが、ピッツバーグ大学の社会学者マーギー・カー氏です。同氏はホラー映画ファンがよく口にする「だって楽しいから!」というシンプルな回答に満足せず、人があえて恐怖を体験しようとする行動の裏には、「高揚感」や「アドレナリン放出」だけでは説明できない何かがあるはずだと考えてきました。

Voluntary arousing negative experiences (VANE): Why we like to be scared.
http://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Femo0000470

動物は、何かに驚いたり恐怖を感じたりすると、交感神経系の神経インパルスを発し、アドレナリンなどの化学物質を放出します。そして、自身に戦うか逃げるかを差し迫り、刺激に反応する準備体制を整えます。この一種の「高揚感」をともなう「闘争か逃走か反応」のおかげで、人類は数千年間も生き延びることができたのです。

カー氏は、ピッツバーグでもっとも怖いホラー系アトラクションとして知られるScareHouseに入る客のデータを2年間にわたって集め、恐怖体験から生じるのは「高揚感」以上のものであることを発見しました。ScareHouseは約35分間コースの大人限定のアトラクションで、中には恐ろしいお化けやエフェクトが所狭しと仕掛けられています。お化けは客の身体に直接触れ、電気ショックまでもが与えられます。

カー氏らはScareHouseの地下に実験室を設け、262名の客を対象に調査を行いました。被験者らはアトラクションの前と後に、「このアトラクションに何を期待するか」や「今どんな気分か」に関するアンケートに回答しました。また、被験者のうち100名については、アトラクションの前と後にさまざまな認知・感情タスクを15分間ずつ行い、その間の脳波を測定しました。

その結果、被験者の多くが、アトラクション体験直後に不安や疲れが減少し、気分が顕著に良くなったと報告しました。しかも、強い恐怖を感じた被験者ほど、体験後の幸福度が高かったのです。被験者らは、「自分の中の恐怖心に向き合い、自分自身を知ることができた」とも報告しています。

Spooky Dangerous Creepy Weird Halloween Horror

また、脳波のデータからは、気分が良くなった被験者では、アトラクション体験後の脳の反応性が体験前と比べて減少していることが明らかになりました。強烈な恐怖体験は、少なくともそれがお化け屋敷のようなコントロールされた環境下においては、脳の活動を一定程度「休止」させることで気分を向上させます。長距離マラソンやクライミングなども、ホラー系アトラクションと同様に不確実な感覚、身体的疲労、自分自身への挑戦、乗り越えた時の達成感といった共通点があります。

このように、娯楽を目的とした恐怖体験は、ストレスと見なされる出来事を瞬間的に校正しなおし、自信を向上させるブースターとして働きます。非日常体験を乗り越えた後では、日常生活のすべてが大した問題ではないように感じられます。人はお化けが偽物であることを理性では理解していますが、体験に没頭する時、恐怖心やそれを乗り越えた時の達成感をリアルに感じることができるのです。

カー氏によると、ホラー系の娯楽は自己認識や恐怖から立ち直る力を高めるのに役立つそうです。安全な環境のもとで、身体の反応や変化を客観的に観察し、自分自身への深い洞察を得ることができるのです。

ホラー系の娯楽を楽しむには、自分自身の意思で体験することがもっとも重要です。乗り気でない友達を無理矢理つきあわせるのはやめましょう。同じ意志を持った友達と一緒に体験すれば、スリリングな体験を通じてお互いの感情が相手に伝染し、深い絆をつくることができます

「闘争か逃走か反応」は普遍的なものですが、その程度は個人の遺伝、環境、経験などで異なり、恐怖体験が大好きな人もいれば毛嫌いする人もいます。とはいえ、好むと好まざるとにかかわらず、恐怖体験がもたらす冒険心や好奇心は誰にとっても有益なものです。結局のところ、私たちは未知の新世界を切り開こうとする勇気に溢れ、危険に直面した時は賢く迅速に「戦うか逃げるか」した祖先の子孫に違いないのですから。

ホラーが苦手な人も、ひょっとするとお化け屋敷やホラー映画にトライすることで、内に眠る「スーパーヒーロー」を解き放てるかもしれません。

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via: livescience / translated & text by まりえってぃ

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