暗黙知の分類
こうした暗黙知をできる限り形式知に変えるということが、現代人の課題となっています。
科学的な研究も進められていますが、そのためにはこの広範で抽象的な暗黙知をカテゴリー分類して、ターゲットを絞って理解していく必要があります。
では、暗黙知にどんな分類があるのか見ていきましょう。
知識の研究は比較的新しい分野で、これから紹介する暗黙知の分類も完全なものではありません。研究者によって呼び方が変わる場合もあるかもしれませんが、理解を深める助けになるでしょう。
1.暗黙の知識
名前が被っている気もしますが、これは明文化されず、あくまで話し言葉の中だけで共有されるタイプの知識を指します。
例えば、新しい職場で、あの先輩は面倒だから関わらないほうがいいとか、あの人は親切だから頼るといい、みたいな知識があったとすれば、それは暗黙の知識に分類されます。
これは明示的に表現されることはまずありえない知識です。他人との対話の中だけで学習していくしかない暗黙知なのです。
2.手続き知識
手続き知識とは、教科書やマニュアルなどで得られた知識(形式知)を、適切に運用するための知識のことです。
例えば数学の授業聞いてちゃんと理解できたとしても、目の前の方程式が必ず解けるかというと、そうとは限りません。
マニュアルを読んで、機械の使い方を覚えたとしても、いざ使うとなったらスムーズに利用できるわけではありません。
知識はあっても、適切なタイミングでスムーズに「手順」を実行できなければ、多くの物事はうまくいきません。この「手順」をスムーズに行うためには反復した訓練が必要になります。
手際の悪い新入社員に対して「教えたのになんでできないの!」と憤る人は、この手続き知識が教えても共有できない知識だと理解する必要があるかもしれません。
3.文脈知識
これは排他的でローカルなルールなどに含まれる知識です。
例えば、多くの日本人はエスカレータに乗った際、綺麗に片側だけ空けるという並び方をしたりします。
これには明確なルールがあるわけではなく、海外から来た人にとってはまったく意味不明だったりしますが、状況から判断して利用する隠れた知識が存在しています。
これは日本人として日本で生活していなければ、なかなか会得できない知識でしょう。
同様にイベントなどには、常連のファンだけの常識があったりします。コミケにしろライブにしろ、大きなイベントは文脈知識が共有されていることで、スムーズに運営されています。
これはネットなどで共有可能な知識かもしれませんが、エスカレーター同様、実際何度か体験しないと、なかなかスムーズには利用できない知識です。
こうした場の雰囲気から読み取って覚えていく暗黙知を文脈知識と呼びます。
これがうまく会得できず利用できない人は、周りから空気が読めないやつと言われてしまうかもしれません。
4.身体知
これは言葉のまま身体の動かし方に関する知識です。
さきほどの自転車の運転や、童貞は知識があっても云々みたいな話題も関係するかもしれません。
私たちは歩き方とくに意識せずとも歩行することが可能です。しかし、そのやり方を問われても教えることはできません。
野球やサッカー、陸上も、ボールの投げ方、蹴り方、走り方は教えることはできてもそれがうまく実践できるようになるには、反復して身体を動かしていく必要があります。
料理人の包丁の手さばきなどもこれに含まれます。料理人が10年下働き続けないとダメだ、なんていうのもこうした暗黙知を獲得することを指して言っているのでしょう。
これは明示的に示すことのできない知識です。