- ミラクゴーストとして知られる遠方銀河の超大質量ブラックホール(SMBH)質量が測定された
- これはSMBHとしては最小の太陽質量100万倍で、誕生時は50万倍だったと推定される
- 誕生時に太陽の50万倍の質量は、SMBH形成における直接崩壊モデルを支持する結果だ
130億光年近く離れた宇宙の果てからは、太陽の数十億倍という超大質量ブラックホール(Supermassive black hole:SMBH)がいくつも見つかっています。
ビッグバンから10億年未満という時代に、これだけ巨大な質量のブラックホールが存在する理由は、既存の理論では説明ができず、天文学の大きな謎になっています。
これを説明するために、科学者は2つの可能性を考えているそうです。
1つは重い恒星の死によって誕生した太陽質量の100倍程度のブラックホールが種となり、急成長したという恒星崩壊説。
もう1つは、初期宇宙を漂っていたガス球(水素ガスの塊)が、星にならずに直接重力崩壊を起こして、太陽質量の数10万倍というブラックホールを生み出したという直接崩壊説です。
このどちらかを決定するためには、SMBHの最小質量(誕生時の質量)がどの程度であったかを知る必要があります。
今回の研究は、新たな観測法から測定されたSMBHが、誕生時におよそ太陽質量の50万倍程度だったということを報告しています。
これはSMBHの形成が直接崩壊が原因だったという説を一歩優位に押し上げるものです。
ミラクゴーストの観測
太陽の10万倍以上の質量を持つブラックホールは超大質量ブラックホール(SMBH)と呼ばれます。
今回観測が行われたのは、ミラクと呼ばれるアンドロメダ座β星の近くに見える銀河NGC404です。
ミラクは2等星の非常に明るい星です。
この星の明るさに紛れてぼんやりとしか見えないため、NGC404は通称「ミラクゴースト(ミラクの幽霊)」と呼ばれています。
NGC404は地球から1000万光年の距離にあり、星形成も確認できる初期銀河です。
SMBHは通常、非常に活発な活動を行う銀河の中心にあり、初期がどんな状態であったかを推定することはできません。
NGC404が重要な観測対象なのは、この銀河が比較的静かな初期銀河であり、中心にあるSMBHも大量の物質を吸い込む機会がなかったため、形成時の外観を推定できるという点です。
研究チームは、チリにあるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(通称アルマ望遠鏡)の新しい観測手法によって、NGC404を1.5光年という解像度で観測しました。これはこれまでの銀河観測で最高解像度です。
この高い解像度の観測データから、チームはミラクゴーストの中心SMBHの渦巻く速度を正確に測定することに成功しました。
降着円盤の回転速度はブラックホールの質量の積と関係しているため、質量推定に重要な情報となります。
ここで得られた測定結果は、このSMBHが太陽質量のおよそ100万倍であることを示していました。
そして成長度合いから推定された、このSMBHの形成時の質量は太陽質量の50万倍だったとわかったのです。