ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】
ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】 / Credit:Canva
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ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】

2025.04.14 22:00:22 Monday

アメリカのスタンフォード大学(SU)で行われた研究によって「ある一般的なワクチンを打つと認知症のリスクが約20%ほど減るかもしれない」という、耳を疑うような研究結果が報告されました。 

高齢化が進む現代社会では、認知症予防は切実な課題です。

これまでにも「ヘルペスウイルスは認知症の原因に関与している可能性がある」という説はささやかれてきましたが、まさか帯状疱疹ワクチンがその対策になり得るなんて、想像できたでしょうか。

いったいどんな仕組みで、このワクチンが私たちの脳を守ってくれるのでしょうか?

研究内容の詳細は『Nature』にて発表されました。

A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia https://doi.org/10.1038/s41586-025-08800-x

高齢化と認知症、ヘルペスウイルスの意外な影

ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】
ある一般的なワクチンは認知症のリスクを20%も減らす効果があった【Nature】 / Credit:Canva

高齢化が進む現代社会では、「いかに認知症を予防するか」がますます切実なテーマになっています。

認知症はアルツハイマー型だけでなく、血管性やその他さまざまなタイプがあるため、一枚岩で語りにくい病気ですが、共通しているのは患者本人だけでなく家族や社会全体に大きな負担がかかるということです。

だからこそ、病気が発症する前の段階で“何がリスクを下げる手段になるのか”を探る研究は、非常に注目を浴びてきました。

その中でここ数年、専門家の間では「ヘルペスウイルスと認知症の関係」に注目が集まっています。

ヘルペスウイルスと聞くと、唇にできる単純ヘルペスや性器ヘルペスを思い浮かべるかもしれません。

しかし実は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)もヘルペスの仲間で、一度かかると神経節に潜むという厄介な特徴を持っています。

子どもの頃にかかった水痘(水ぼうそう)が大人になってから“帯状疱疹”として再発するのは、潜伏していたウイルスがなんらかのきっかけで再活性化するからです。

そしてこの再活性化が、神経系に悪影響を与える可能性がある──そんな説は以前から指摘されており、実際に複数の観察研究では帯状疱疹を経験した人ほど認知機能低下のリスクが高まるかもしれないというデータが示されています。

さらに、マウスを用いた実験的なモデルでも、ヘルペスウイルスの再活性化が神経細胞に慢性的な炎症やダメージをもたらし、脳の老化や認知症の進行を後押しする可能性があると報告されています。

また、近年は「ワクチンのオフターゲット効果」という新しい視点がクローズアップされています。

これは、特定の病気を予防するはずのワクチンが、免疫システム全体にプラスの変化をもたらすことで、結果的に別の疾患リスクまで下げるかもしれないという考え方です。

たとえば、インフルエンザワクチンを打つ習慣がある人は総じて健康リテラシーが高くだけでは説明できないメリットが存在するのではないか、と考えられています。

帯状疱疹ワクチンと認知症の関係は、まさにこの二つの見方──「ヘルペスウイルスによる神経への影響」と「ワクチンが免疫を幅広く強化するかもしれない効果」──が交わる論点として浮上してきました。

ところが、こうした研究を進めるうえで大きな障壁だったのが、“ワクチンを打つ人”と“打たない人”との生活習慣や健康意識の違いをどのように排除するか、という問題です。

単純に「接種群 vs. 非接種群」で比較してしまうと、ワクチン接種率の高い人ほどもともと健康管理に熱心だったり、医療機関をこまめに受診していたりして、結果が歪められる可能性があるわけです。

歴史的にも、ヘルペスウイルスと脳機能についてはさまざまな仮説と検証が繰り返されてきました。

ただ、実際に「帯状疱疹ワクチンが認知症発症を予防する」とまで踏み込んだ研究は多くありませんでした。

その理由のひとつが、先ほどの“交絡因子”をうまく制御できないという難しさです。

だからこそ研究者たちは、「本当にワクチン接種そのものが認知症のリスクを下げているのか」を突き止めるため、よりダイナミックな手法が求められていたのです。

そこで今回研究者たちは、“自然実験”と呼ばれるアプローチを使うことにしました。

ちょうどウェールズでは、ある日付より前に生まれた人は帯状疱疹ワクチンの公的接種の対象外、ある日付以降に生まれた人は対象内という、かなりキッパリした制度が運用されていたのです。

生年月日がたった数日違うだけでワクチンを無料で受けられるかどうかが大きく変わる状況を利用し、両グループの認知症発症率を比較すれば、従来の交絡要因が最小化できる──そう考えたわけです。

こうして、大規模な電子カルテデータと公的接種制度の“生年月日による線引き”を組み合わせることで、帯状疱疹ワクチンと認知症リスクの関係を、より厳密に検証することに挑んだのです。

次ページまさかの関係:帯状疱疹ワクチンが認知症予防に

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