【水しぶきが生命を作る】水滴の衝突だけで有機分子合成に必要な電荷が得られると判明
【水しぶきが生命を作る】水滴の衝突だけで有機分子合成に必要な電荷が得られると判明 / Credit:Yifan Meng et al . Science Advances (2025)
uncategorized

【水しぶきが生命を作る】水滴の衝突だけで有機分子合成に必要な電荷が得られると判明

2025.03.19 20:00:43 Wednesday

滝のしぶきや海の波打ち際、雨粒が舞う空間……私たちの周りには、想像以上にたくさんの“水の微粒子”が飛び交っています。

アメリカのスタンフォード大学(Stanford Univ.)で行われた研究によって、こうした水滴同士のわずかな衝突や分裂の瞬間に、極小の電撃「マイクロライトニング(微小放電)」が飛び、その放電によって生命の材料となる有機分子をつくり出す可能性が示されました。

生命の元となる有機分子はかつては激しい雷によってもたらされたと思われていましたが、実は小さな水滴の起こす電撃で十分だったのかもしれません。

研究内容の詳細は『Science Advances』にて発表されました。

Spraying of water microdroplets forms luminescence and causes chemical reactions in surrounding gas https://doi.org/10.1126/sciadv.adt8979

生命材料の構築に必要なエネルギーは強力な雷とは限らない

1950年代に行われた「ミラー=ユーレイ実験」では、雷のような強い放電とメタンやアンモニアなどのガス、大量のを組み合わせることで、生命の材料となるアミノ酸などの有機分子を人工的につくれることが示されました。

これは「稲妻がエネルギー源となり、初期地球の大気中で有機物が増えていったのではないか」という説を大きく後押しした実験です。

ただし、実際の地球規模で考えると、あのように激しい稲妻はそれほど頻繁に発生せず、海や大陸上で一定量の有機分子を十分に作り出せたかどうか、長年疑問の声もありました。

一方で、大迫力の雷放電よりはるかに小さなスケールで起こる「微小な水滴が生み出す放電」にも注目が集まっています。

雷が起こる嵐雲の中では、水滴や氷が激しくぶつかり合って電荷が分離し、大気を貫く放電が走ります。

しかし、滝や波しぶきのように水滴が盛んに飛び散る場所でも、大きい水滴がプラス、小さい水滴がマイナスの電荷を帯びて衝突することがあり、その瞬間に極めて小さな“火花”が発生することが知られています。

もしこれが、雷ほど珍しくない頻度で生命の材料を合成しうるなら、地球全体で見た場合、稲妻以上の大きな役割を果たした可能性があるのです。

そこで今回研究者たちは、スプレー状に噴霧した水滴が合体・分裂する瞬間に生じる微小放電に着目し、そのとき発生するエネルギーがどんな化学反応を引き起こすのかを詳細に調べることにしました。

画像
ここに示された図は論文から引用したものです。この図は、初期地球の大気を模した環境下で、微小放電による有機分子合成を再現するためのシステムです。まず、窒素、メタン、二酸化炭素を8:1:1の割合で混合したガスが供給され、これを噴霧装置で水微小滴に変換します。水滴は噴霧時に自然と帯電し、大きな滴が正、小さな滴が負の電荷を帯び、互いに近づくことで微小な放電(マイクロライトニング)が発生します。同時に、ステンレス製容器から加熱によって気化したアンモニアも供給され、これらのガスと水滴が反応室内で混合されることで、雷放電を用いたミラー=ユーレイ実験と同様の条件下が再現されます。さらに、音響による「アコースティック・リフテーション装置」を用い、単独の水滴を宙に浮かせその挙動と放電を高感度カメラや光センサーで検出するユニークな手法も採用されました。生成された有機分子はOrbitrap質量分析計にリアルタイムで導入され、短時間(数十~200マイクロ秒)で反応が完了する様子が確認されました。これにより、滝や波、霧といった日常的な水滴の衝突が、稲妻のような大規模な放電に頼らずとも、地球全体で有機分子生成に寄与していた可能性が示され、生命の起源に新たな視点を提供する革新的な装置であることが明らかになりました。/Credit:Yifan Meng et al . Science Advances (2025)

調査に当たってはまず、音響の力で浮かせた単独の水滴を観察するというユニークな手法を用いました。

音波を使った特殊な「アコースティック・リフテーション装置」を使うことで、水滴を宙に留めたまま大きさや変形のタイミングを自在にコントロールし、そこで発生する微小な火花(マイクロ放電)を高感度のカメラや光センサーで直接検出できるのです。

さらに、スプレー状に噴霧した水を高速で飛ばす実験も併行して行い、そこにさまざまなガスを混合して質量分析計(MS)へ送り込みました。

こうして、どのような化学種が新たに生じるかをリアルタイムで解析したのです。

実験では、水滴が分裂するとき、想像以上に強い電場が生じることが確認されました。

例えば、直径の異なる水滴どうしが接近する際には、わずかな距離でもきわめて高い電位差が発生し、目に見えるほどの微光を放つ“マイクロライトニング”が観測されました。

質量分析の結果、この放電によって周囲のガス分子がイオン化されるだけでなく、炭素と窒素が結合した有機分子(アミノ酸や塩基など)が新たに作られていることが示されたのです。

さらに、水をH₂OではなくD₂O(重水)に置き換えると、生成される分子に重水由来の成分が取り込まれていることもわかり、水滴との相互作用が確かに反応に関わっていることを裏づけました。

以上の結果は、雷のように大きな放電を必要とせず、ありふれた水しぶきの衝突だけで生命の基盤となる分子が生まれる可能性を示しています。

滝や波しぶき、さらには日常的に見られる霧や水の噴霧など、地球上あらゆる場所で無数に起こりうる水滴の分裂現象が、実は長い地球の歴史の中で“有機物の創出工場”として機能していたかもしれないのです。

この事実は、これまで雷放電に頼るシナリオだけでは説明しきれなかった「生命の材料が地球上にどのように広まったのか」を理解する新しい視点をもたらす、きわめて重要な発見だといえます。

次ページ水滴が生命誕生の原動力だった

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

未分類のニュースuncategorized news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!