培養脳を長期育成した結果、ひっそりと乳児期に移行していたと判明
近年の急速な生物工学の進歩により、ヒトの脳を人工的に培養することが可能になってきました。
人工培養された脳は、一般に「脳オルガノイド」と呼ばれ、ブラックボックスとされてきた脳機能の解明において貴重な実験材料となっています。
しかし脳オルガノイドには奇妙な限界が知られていました。
どんなに順調に培養を続けていても、胎児期の後期(10カ月)に差し掛かると、ピタリと成長が停止して、変化がみられなくなってしまうのです。
しかし今回、カリフォルニア大学の研究者たちが、標準を大きく上回る20カ月(600日)の培養を行った結果、驚きの変化が生じました。
長期培養された脳オルガノイドでは、活性化している遺伝子が大きく変化し、産後約300日目の乳児の脳と、同じようなパターンに変化していたのです。
特に興味深かったのは、神経伝達の鍵となるNMDAと呼ばれる脳細胞受容体の出現でした。
NMDA受容体は学習や記憶などに必須なタンパク質であり、このタンパク質が出現したということは、乳児段階に達した脳オルガノイドが、架空の「誕生後」におこなう学習に向けて、神経伝達回路を準備していることを示します。
以上の結果は、発達が止まったと思われていた脳オルガノイドも、ヒトの赤ちゃんの脳と同じペースで成長を続けていたことを示します。
そして誰にも祝われることなく、胎児期を抜け出し、乳児期に移行していたのです。