自転の制限速度が意味するもの
すべての回転する物体には向心力が発生します。
メリーゴーランドが飛んでもない高速回転をしたら、木馬に乗っている人たちは、みんな外に吹き飛ばされてしまいます。(向心力と遠心力は本質的に同じ力です。遠心力とは向心力に対する見かけ上の力を指します)
木星や土星は約10時間で1回転していますが、こうした効果によって中央部分が膨らんだ状態になっています。これをオブレーション(oblation)といいます。
研究者によると、今回確認された3つの最高速度で回転する褐色矮星は、みな同程度のオブレーションが確認できるといいます。
これは、このまま回転が速まっていった場合、星の崩壊に繋がる可能性があります。
しかし、先程フィギアスケートを例に解説した、冷えて収縮した星は回転速度が上がるという問題を考えると、疑問が浮かんできます。
褐色矮星は年を取るほど冷えていくため、自転速度も上昇する傾向があるのです。
ということは、褐色矮星は最終的に、可能な自転速度の限界を超えて引き裂かれて崩壊してしまうのでしょうか?
通常、他の回転する天体では、自身の崩壊するような回転速度を自然に制限するブレーキ機構が存在しています。褐色矮星もそのようなメカニズムを持っている可能性があります。
「褐色矮星が速く回転しすぎたために、その大気を宇宙へ放出しているところを発見できたなら、かなり壮観でしょう。しかし、これまでのところ、そのようなものは見つかっていません。
これは褐色矮星が極端な速度に達する前に、何らかの原因で減速しているか、そもそもそこまで速く回転できないことを意味していると思われます。
私たちの研究の結果は、褐色矮星の回転速度に何らかの制限が存在することを裏付けています。ただ、その理由はまだわかりません」
今回の研究筆頭著者であるカナダのウェスタンオンタリオ大学のメーガン・タノック博士は、その様に述べています。
物体の最大自転速度は、その総質量以外に、その質量がどの様に分布しているかによって決定されます。
そのため、自転の制限速度の理由を考える場合、褐色矮星の内部構造を理解することが非常に重要となります。
褐色矮星は、木星や土星などの巨大ガス惑星と同様に、主に水素とヘリウムで構成されています。
しかし、褐色矮星の核となる水素は、巨大ガス惑星よりもはるかに大きな圧力によって高密度に圧縮され、金属のように振る舞っています。
この状態は銅のように電導性を高め、熱の伝達方法にも変化を与え、高速回転する物体内での質量分布にも影響を与えます。
「この状態の水素は、現代の知識をもってしても非常に謎めいたものです。最先端の降圧物理学研究所でさえ、この状態を再現することは非常に困難なのです」
研究の共著者であるウェスタンオンタリオ大学のスタニミル・メッチェフ氏はそのように説明しています。
物理学者は、観測や実験データ、数学的解析を利用して、褐色矮星の内部がどの様になっているかモデル化しようとしています。
しかし、現在のモデルでは、褐色矮星の最大回転速度は、今回の研究で確認された1時間に1回転という速度より、約1.5から1.8倍速く回転できることが示唆されています。
「これは、褐色矮星に関する理論が、まだこの星の全体像を把握できていない可能性を示している」とメッチェフ氏は述べています。
褐色矮星には、何らかの自己破壊を防ぐためのブレーキが存在しているかもしれません。しかし、もしかしたら見えない暗闇の中で、褐色矮星がさらに速く回転している可能性もあります。
それは今後の研究に引き継がれる問題となるようです。