山の斜面を背に、草の生えた岩場の上に立ち、こちらを見ている茶色のウシ No.0042

ナゾロジー図鑑 ・ 生き物

ウシ

Bos taurus

4つの胃と反芻で、草から栄養をとる。
祖先は絶滅したオーロックス。1万年以上、人とくらしてきた。

ナゾロジーの記事
20本
胃の部屋の数
4つ
見わたせる範囲
330°

ウシは、絶滅した野生のオーロックスを人が飼いならしてできた哺乳類です。4つに分かれた胃の微生物と反芻のしくみで、草から栄養をとります。人の顔を見分けたり、道具を使ったりするウシもいます。約1万500年前から人とくらし、肉や乳をとったり、畑仕事を手伝わせたりするために飼われてきました。

図鑑データ

分類
哺乳類 › 偶蹄目(鯨偶蹄目)› ウシ科 › ウシ属
学名
Bos taurus(コブウシ・オーロックスを別の種とする考え方もある)
英名
cattle(キャトル)。メス(とくに子を産んだもの)は cow、去勢していないオスは bull、子は calf
漢字
牛(十二支では丑)
祖先
オーロックス(野生のウシ。1627年に絶滅)
大きさ
品種でちがう。ホルスタイン(日本の標準)はメス体高141cm・体重650kg、オス体高160cm・体重1,100kg
体のつくり
蹄は2つに分かれる。胃は4つの部屋。上あごに前歯がない
食べもの
草や牧草。反芻し、胃の微生物に繊維を分解させる
増え方
妊娠期間は285日前後で、ふつう1頭を産む
寿命
自然の寿命は25〜30年ほど
家畜化
約1万500年前に西アジアで。コブウシは南アジアで別に家畜化
日本では
乳牛の99%がホルスタイン、和牛の95%が黒毛和種。在来牛の見島牛・口之島牛も残る

ウシとは(何類? 何科? 特徴は?)

ウシは、人に飼われている大きな哺乳類です。分類では偶蹄目(鯨偶蹄目)ウシ科ウシ属のなかまで、ヤギやヒツジも同じウシ科にふくまれます。草を食べ、一度飲みこんだ草を口にもどしてかみ直す「反芻(はんすう)」をする、代表的な反芻動物です。

ウシは、野生のウシ「オーロックス」を、人が飼いならしてできた家畜です。オーロックスは、今では絶滅しています。今のウシは、ヨーロッパや東アジアの北の地域などで飼われる、コブのない「タウルス牛」と、背中にコブがある「コブウシ(ゼブー)」の、大きく2つの系統に分かれます。アフリカや東南アジアには、この2つがまざったウシもいます。品種は、全部で1,000をこえます。

緑の牧草地に立ち、顔をこちらに向けている白黒模様のホルスタイン
牧草地のホルスタイン写真: Verum(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

学名は Bos taurus です。ただし、タウルス牛・コブウシ・オーロックスを1つの種の中のグループ(亜種)とする考え方と、それぞれ別の種とする考え方があり、アメリカ哺乳類学会は別々の種としてあつかっています。ウシは、ヤク、ガウル、バンテンなど、ウシ属のほかの種と子どもをつくれることもあります。

英語では、ウシ全体を cattle(キャトル)と呼びます。メス(とくに子を産んだもの)は cow(カウ)、去勢していないオスは bull(ブル)、子ウシは calf(カーフ)です。車や犂(すき)を引くように訓練されたウシは ox(オックス)と呼ばれ、多くは去勢したオスです。

大きさと体のつくり(何キロ? 角・歯・毛の色)

大きさは、品種によって大きくちがいます。日本の乳牛でいちばん多いホルスタインでは、おとなのメスの標準が体高141cm・体重650kg、オスが体高160cm・体重1,100kgです。和牛の黒毛和種はやや小さく、メスで体高130cm・体重450kgほどです。いちばん大きな品種とされるキアニーナでは、オスの肩の高さが1.8m、体重が1,280kgに達することがあります。同じ品種なら、オスはメスより数百kgも重くなることがあります。

白い幕の前で、真横を向いて立つ、黒い毛のウシ
黒毛和種のメス写真: 全国和牛登録協会(JIRCAS Library)(CC BY 2.0) / Wikimedia Commons

ウシは、第3指と第4指の2本の指で歩きます。指の先はそれぞれ蹄(ひづめ)なので、蹄が2つに分かれて見えます。

  • 角:ウシの角は、生きた骨の芯を、ケラチンというタンパク質のさやがおおったつくりです。角は頭の皮の下から生まれ、あとで頭蓋骨の前頭骨とくっつきます。シカの角(枝角)とちがい、ウシの角は枝分かれせず、生えかわりもしません。ただし、角のない品種(無角和種など)もいます。
  • 歯と舌:オスのウシの歯は、上あごに12本、下あごに20本です。上あごには前歯(切歯)がありません。草を食べるときは、長い舌で草を巻きとって口に運びます。
  • 毛の色:黒、白、赤茶色がよく見られ、ぶち模様やまざった色の品種もあります。ホルスタインの白黒模様は、白い地に黒いぶちがあるように見えますが、実は黒い地に、遺伝で白い斑(ぶち)が加わったものです。4本の脚、尾の先、おなかの下の6か所には必ず白い斑が入るため、昔の日本ではホルスタインを「六白牛(ろっぱくぎゅう)」と呼びました。
  • 鼻:鼻の表面には、人の指紋のように1頭ずつちがう「鼻紋(びもん)」があり、1頭ずつ見分けるのに使われます。
黒い背景の前に置かれた、横向きのウシの白い頭骨。上あごの奥に歯が並び、頭の後ろの上に角の骨がある
ウシの頭骨(横から)写真: Anja(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

何を食べる? 4つの胃と反芻、ゲップ

ウシは草食で、草や牧草を食べます。クローバーを7割、イネ科などの草を3割くらいの割合で食べるのを好むとされます。自然に近い環境では、1日の多くの時間を、食べものを探して食べることに使います。

ウシの胃は、4つの部屋に分かれています。食べた草はまず、いちばん大きい第1胃(こぶ胃、ルーメン)に入ります。第2胃(蜂巣胃)は、内側がハチの巣のような形です。第3胃(重弁胃)は、おもに水分や栄養を吸収します。人の胃のように胃液を出すのは、第4胃(皺胃)だけです。焼き肉などでは、4つの胃はそれぞれ「ミノ」「ハチノス」「センマイ」「ギアラ」と呼ばれます。

食道から腸までつながった、ピンク色の4つの部屋の図。矢印で食べものの流れが示されている画像はイメージです
4つの胃の部屋(図)写真: Millardcrystal(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

じつは、ウシ自身は、草のかたい繊維(セルロース)を消化できません。第1胃と第2胃には、細菌、繊毛虫などの原生生物、カビのなかまなど、たくさんの微生物がすんでいて、この微生物が草の繊維を分解します。ウシは、微生物が発酵でつくった酢酸などの脂肪酸を栄養にします。さらに、第4胃で微生物そのものも消化して、タンパク質としてとりこみます。

草をよく消化するために、ウシは飲みこんだ草を少しずつ口にもどし、奥歯でかみくだいて、また飲みこみます。これが反芻です。かむときには、だ液がたくさんまざります。ウシ1頭が出すだ液は、1日に100〜150リットルにもなると見積もられています。

第1胃の微生物は、思わぬ力ももっています。2021年の研究では、ウシの第1胃の液が、ペットボトルの材料のPETなど、何種類かの合成ポリエステル(プラスチックの一種)を少しずつ分解できることが、実験で確かめられました。

ナゾロジーでくわしく牛のミノに「プラスチックを消化できる微生物」を発見!プラごみ問題の救世主に?

ゲップとメタン(地球温暖化とのかかわり)

第1胃の中では、微生物が草を発酵させるときに、メタンというガスもできます。メタンは、地球をあたためる力が強い温室効果ガスです。胃にたまったガスは、ゲップとして口から出されます。ウシ1頭がゲップで出すメタンは1年に100kgほどとされ、国連食糧農業機関(FAO)の見積もりでは、2015年の世界の温室効果ガスの排出のうち約7%が、ウシの飼育によるものでした。

メタンをつくるのは、第1胃にすむ「メタン菌」(アーキア=古細菌のなかま)です。2026年に発表された研究では、第1胃の繊毛虫の450のゲノム(遺伝情報)を集め、100頭のウシのメタンの量をはかりました。その結果、繊毛虫の細胞の中にある「ハイドロゲノボディ」という小さな器官が水素をつくっていて、この器官が多い種類の繊毛虫ほど、メタン菌がメタンをつくるのを強く後押ししていることが分かりました。ゲップのメタンを減らすために、えさに3-ニトロオキシプロパノール(3NOP)という物質をまぜるなどの研究も進んでいます。

ナゾロジーでくわしく牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明

目・耳・頭のよさ(なぜ鳴く? 顔を見分ける?)

ウシがまわりのようすを知るのにいちばん使うのは、目です。目が顔の横についているので、まわりの330°ほどを見わたせます。そのかわり、両目で同時に見られる範囲は30〜50°ほどで、人(140°)よりずっとせまくなっています。色の見え方は、多くの哺乳類と同じ「2色型」です。

闘牛で使う赤い布(ムレータ)は、赤い色でウシを興奮させているわけではありません。ウシは赤と緑の区別が苦手で、闘牛では赤い色ではなく、布が動くのを見て突進します。布が赤いのは、ウシの血を目立たなくするためと考えられていて、今では伝統として続いています。

耳はウマよりもよく聞こえますが、音のする方向を聞き分けるのは、ヤギより苦手で、イヌや人よりずっと苦手です。においは、なかまどうしのやりとりで大きな役わりをもつと考えられ、ストレスを受けたなかまの尿のにおいから、そのことに気づけます。舌には、味を感じる「味蕾(みらい)」が約2万5000個あり、人のおよそ5倍です。

群れのくらしと気持ち

ウシは群れでくらす動物で、群れの中には順位があります。半野生のウシの群れでは、ふつう年上のウシのほうが、またオスのほうが順位が高くなります。順位の低いウシが、高いウシの体をなめることが多く、このなめ合いには、毛をきれいにするだけでなく、心拍数を下げてウシを落ち着かせる効果もあります。仲のよいウシがそばにいると、ストレスのかかる場面でも心拍数が低くなります。2頭のウシの「友だち」のような関係もよく見られ、長く続きます。反対に、1頭だけにされると、短い時間でもストレスを感じ、鳴き声が増えて、心拍数やストレスホルモンが上がります。

こわがりやすさや、なかまとの付き合いの好みなど、1頭ずつ性格のちがいもあります。眠る時間は、1日に平均4時間ほどです。立ったままでは深く眠らず、深く眠るときは横になります。

ウシはなぜ鳴く?

ウシの鳴き声には、鳴いたウシの年齢や性別、群れの中での順位、子どもをつくれる状態かどうかといった情報がふくまれています。子ウシは、知らないウシの声より、自分の母親の声を好みます。2019年の研究では、13頭の若いメスのホルスタインの鳴き声333回分を調べました。すると、えさを待つときのような楽しそうな場面でも、なかまから引きはなされたいやな場面でも、1頭ずつの「声の個性」が保たれていました。声の個性は、なかまからの助けを得るのに役立つと考えられています。

人の顔を見分け、道具も使う

ウシは、えさのある場所をいくつも覚え、その記憶を少なくとも48日間保てます。2026年に発表されたフランスの研究では、32頭のウシに、よく知っている人と知らない人の顔の動画を同時に見せました。するとウシは、知らない人の動画のほうを長く見ました。さらに声を聞かせると、その声と合う人の動画を長く見ました。ウシは人の顔を見分け、顔と声を結びつけて覚えていると考えられます。

ナゾロジーでくわしく牛は「親しんだ人の顔」を見分けられると判明

道具を使うウシも見つかっています。ペットとして飼われているウシ「ヴェロニカ」は、デッキブラシを使って自分の体をかきます。実験をくり返すと、ふだんはブラシの毛のある側を使い、おなかなど体の下のやわらかい所をかくときには、柄の側に切りかえていました。1つの道具のちがう部分を目的によって使い分ける行動が、霊長類以外の哺乳類で報告されたのは初めてです(2026年の研究)。

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海と山が見える草地で、茶色の母ウシのおなかの下にもぐって乳を飲む子ウシ
乳を飲む子ウシ写真: Joaquin Cuervo(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

体の模様で身を守る(ハエとシマウマ柄、お尻の目)

牧場のウシは、血を吸うサシバエやノサシバエ、アブなどになやまされています。こうしたハエのなかまは、畜産に大きな損害を出す害虫です。ウシは、頭をふる、耳を打ちつける、足をふみ鳴らす、皮ふをぴくぴく動かす、尾をふるといった動きで、ハエを追いはらおうとします。

シマウマのしま模様には、血を吸うハエを寄せつけにくくする働きがあると考えられています。そこで愛知県農業総合試験場などの研究チームは、6頭の黒毛和種のウシの体に、白と黒のしま模様をかく実験をしました(2017〜2018年)。すると、白黒のしまをかいたウシにとまったハエの数は、何もかかないウシや、黒いしまだけをかいたウシのおよそ半分になり、ハエを追いはらう動きも少なくなりました。殺虫剤を使わずにハエをふせぐ方法として注目されています。

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アフリカのボツワナでは、放牧中のウシがライオンやヒョウにおそわれる被害が問題になっています。研究チームは2015〜2018年に、2,061頭のウシを、お尻に大きな「目」の模様をかいたウシ、「×」印をかいたウシ、何もかかないウシに分け、おそわれる数を比べました。その結果、目をかいた683頭は、1頭もライオンやヒョウに殺されませんでした。×印の543頭では4頭、何もかかない835頭では15頭が殺されていました。研究チームは、お尻の目が、待ちぶせして狩るライオンなどに「相手に見つかった」と思わせ、おそうのを思いとどまらせたのではないかと考えています。ただし、×印にも効き目があったことから、見なれない目立つ模様そのものにも、効果があるようです。

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増え方と寿命(乳が出るしくみ・何年生きる?)

乳牛のメスは、1年中、約21日ごとに発情(交尾を受け入れる状態)をくり返します。妊娠期間は285日前後(9〜10か月ほど)で、ふつう1頭の子を産みます。生まれる子のオスとメスの割合は、およそ52対48です。メスは、ひと目につかない場所を選んで出産します。

母ウシの乳房には、乳首が4つあります。肉牛の子ウシは、1日に平均5回、合わせて46分ほど乳を飲みます。自然に近い環境では、子ウシは生後8〜11か月で乳ばなれするまで、母親といっしょにいます。

乳が出るしくみ(乳牛はなぜずっと乳が出る?)

ウシの乳は、本来は子ウシを育てるためのもので、メスは子を産んでから乳を出します。乳牛では、出産から40〜60日ごろに乳の量がいちばん多くなり、そのあと少しずつ減ります。乳をしぼるのは出産から10か月(約305日)ほどまでで、次の出産の前の約60日間は乳をしぼらずに休ませます。乳牛が乳を出しつづけられるのは、1年に1頭ほど子を産むように、くり返し妊娠させているからです。日本では、ウシの繁殖の99%が人工授精で行われています。また、多くの酪農の農場では、病気がうつるのを防いだり、管理をしやすくしたりするため、子ウシを生まれて1日以内に母親から離します。

品種改良によって、今の乳牛は、子ウシが飲むよりずっと多くの乳を出します。ホルスタインは、ウシの品種の中でいちばん乳の量が多く、日本の標準で1年に5,000kg以上、10,000kgをこえるものもめずらしくありません。

円形にぐるりと並んだ白黒のウシたちが、ゆっくり回る台の上で乳をしぼられている屋内の搾乳場
回転式の搾乳場写真: USDA(アメリカ農務省)(Public domain) / Wikimedia Commons

寿命は? 何年生きる?

飼われているウシの自然の寿命は、25〜30年ほどとされます。ただし、多くのウシは、それよりずっと早く出荷されます。世界では、肉牛は生後18か月ほど、乳牛は5歳ごろに食肉になることが多いとされます。日本の和牛では、生後2年半〜3年、体重700kgほどで出荷されることが多く、品種や育て方によってちがいます。

祖先オーロックスと家畜化(野生のウシはいる?)

ウシの祖先オーロックスは、ヨーロッパや北アフリカから、インド、東アジアまで広くすんでいた野生のウシです。オスは肩の高さが1.8mにもなり、長さ80cmに達する大きな角をもっていました。おとなのオスは黒っぽい体で背中に白い線が走り、メスは赤茶色だったと考えられています。旧石器時代のラスコー洞窟などの壁画にも、オーロックスがえがかれています。日本でも、岩手県の花泉遺跡からオーロックスの化石が見つかったとされたことがありますが、本当に日本列島にオーロックスがいたのかは、まだ分かっていません。

黒い大きなオスと、赤茶色のメスのオーロックスの間に、人の黒い影が立っている図画像はイメージです
オーロックスの復元図写真: DFoidl(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

オーロックスは、狩りや、すみかの森が牧場や畑に変えられたことなどで数を減らしました。最後まで残ったのはポーランドのヤクトルフの森の群れで、1627年に最後の1頭のメスが死に、絶滅しました。今では、家畜のウシをかけ合わせて、見た目をオーロックスに近づけようとした品種(ヘック牛)もつくられています。

ウシの家畜化は、約1万500年前に、今のトルコ南東部やシリア北部をふくむ西アジアで始まりました。DNAの研究から、今のタウルス牛は、わずか80頭ほどのメスのオーロックスから始まったと見積もられています。オーロックスは体が大きく気があらかったため、ヤギやヒツジより家畜化がおくれたと考えられています。なお、ウシは、全部の遺伝情報(ゲノム)が解読された最初の家畜の1つで、約2万2000ある遺伝子の80%は、人と共通しています。コブウシは、これとは別に、南アジア(今のパキスタンのあたり)で、インドにいたオーロックスから家畜化されました。

コブウシの背中のコブは、骨ではなく、筋肉や脂肪でできています。暑さや熱帯の病気・害虫に強いので、南アジアやアフリカなどの暑い地域で多く飼われています。インドで広く信じられているヒンドゥー教では、ウシ、とくにコブウシが神聖な動物とされています。世界でウシの飼育頭数が多い国は、インドとブラジルです。

柵の向こうの草地に立つ、灰色っぽい白いウシ。肩が大きく盛り上がり、耳がたれている
コブウシのオス写真: Benton Greene(CC BY 2.0) / Wikimedia Commons

野生のウシはいるの?

祖先のオーロックスは絶滅しましたが、飼われていたウシが逃げたり放されたりして野生化した「野生化牛」は、世界各地の小さな島などにいます。日本では、鹿児島県トカラ列島の口之島に、野生化した「口之島牛」がすんでいて、島内の数は約60頭(2023年)と推定されています。口之島牛と、山口県萩市の見島で飼われてきた「見島牛」は、西洋の品種の影響を受けていない、日本の在来牛です。見島牛の産地は、1928年に国の天然記念物になりました。

木の柵の前に立ち、鼻に輪をつけた黒いウシ
口之島牛写真: KKPCW(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

水牛(スイギュウ)もウシ科の動物ですが、ウシ属ではなく「アジアスイギュウ属」という別のグループで、ウシとの間に子どもはできません。ウシより沼地での作業に向いていて、日本では石垣島や竹富島、由布島などで、観光用の水牛車として見られます。

日本のウシと人とのかかわり

ウシがいつ日本に来たのかは、はっきりしていません。3世紀の日本のようすを書いた『魏志倭人伝』には、「牛馬なし」と書かれています。たしかな古いウシの骨は、奈良県御所市の南郷遺跡から出た5世紀(古墳時代)のもので、ウシは大陸から持ちこまれたと考えられています。

昔の日本では、ウシはおもに田畑を耕したり、荷物を運んだりする「役牛(えきぎゅう)」でした。平安時代には、ウシに引かせる「牛車(ぎっしゃ)」が貴族の乗り物でした。ウシは、くびきをつけて車や犂を引くのには向いていますが、ウマのように背中にまたがって乗ることはあまりありません。口にハミ(ウマを操るための金具)をかませられないことや、角が手綱のじゃまになることなどが、理由とされます。ただ、コブウシなどは、乗用にも使われています。

675年に天武天皇が牛などの肉を食べることを禁じてから、日本では牛肉を食べる習慣がすたれ、牛肉が広く食べられるようになったのは明治時代からです。今の日本のウシは、おもに肉をとる「肉用牛」と、乳をとる「乳用牛(乳牛)」に分かれます。日本の乳牛の99%はホルスタインで、1885年にアメリカから輸入されたのが始まりです。和牛(黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種など)では、95%が黒毛和種です。

日本でも、牛(丑)は十二支の動物の1つです。東北地方では、ウシを「べこ」と呼びます。鳴き声の「べー」に「こ」をつけた呼び名です。また、体の大きな生き物の名前に「ウシ」がつけられることもあります(ウシエビ、ウシガエル、ウシアブなど)。

個体識別番号とBSE

日本で飼われるウシには、1頭ずつ「個体識別番号」がつけられています。BSE(牛海綿状脳症)が広がるのをふせぐことなどを目的に、2003年にできた法律(牛トレーサビリティ法)によるしくみです。ウシを飼う人は、ウシの両耳に番号を書いた耳標(じひょう)をつけ、生まれたことなどを届け出ます。牛肉にもこの番号が表示され、インターネットで、そのウシの生まれや育ちを調べることができます。

土の上にすわって顔を寄せ合う、黒いウシたち。耳に黄色い札がついている
耳標をつけた但馬牛写真: Japanexperterna.se(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

BSEは、ウシの脳の中にすき間ができて、スポンジ(海綿)のようになる病気です。プリオンという、形の変わったタンパク質が原因とする考えが主流です。1986年にイギリスで初めて見つかり、イギリスでは汚染された肉骨粉をえさにしたことが原因と考えられています。日本では2001年に初めて見つかりました。BSEは、人の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と同じ病原体によるものとされています。

ほかにも、法律で届け出が決められた「牛伝染性リンパ腫(以前の名前は牛白血病)」などのウシの病気があります。このうち多い「地方病性」のものは、牛白血病ウイルスがリンパ球に感染して起こります。このウイルスに感染したウシの多くは、症状が出ません。

鼻輪(はなわ)は何のため?

ウシの鼻に通す「鼻輪(鼻環、鼻ぐり)」は、力の強いウシを人が安全にあつかうための道具です。鼻はウシの体の中でもとくに敏感な所なので、鼻輪を引くとウシを動かしやすくなります。とくにオスのウシは力が強く、思いがけない動きをすることもあり、人が大けがをしたり命を落としたりすることもあるため、鼻輪が使われます。日本では、肉牛農家の83.6%で鼻輪がつけられていると推定されています。一方で、鼻輪を通すことや、鼻輪で引かれることは、ウシのストレスになります。

鼻に銀色の輪を通し、耳に黄色い札をつけた茶色のウシの顔のアップ
鼻輪をつけた若いオス写真: JoachimKohler-HB(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

よくある疑問

ウシは何類? 何科?
ウシは哺乳類で、偶蹄目(鯨偶蹄目)ウシ科ウシ属の動物です。ヤギやヒツジも同じウシ科のなかまです。野生のオーロックスを人が飼いならしてできた家畜で、学名は Bos taurus です。
牛の体重は何キロ?
品種によって大きくちがいます。日本の乳牛に多いホルスタインでは、おとなのメスの標準が体重650kg、オスが1,100kgです。和牛の黒毛和種のメスは450kgほどです。日本の肉用牛は、体重700kgほどで出荷されます。
ウシの胃はいくつ? 反芻って何?
ウシの胃は4つの部屋に分かれていて、焼き肉などでは「ミノ」「ハチノス」「センマイ」「ギアラ」と呼ばれます。反芻は、一度飲みこんだ草を口にもどして、もう一度かみくだくことです。胃の中の微生物が、草の繊維の分解を助けます。
ウシの寿命は? 何年生きる?
飼われているウシの自然の寿命は、25〜30年ほどとされます。ただし多くのウシはそれより早く食肉になります。いつ出荷するかは、品種や育て方、健康状態などによってちがいます。
牛はなぜずっと乳が出るの?
ウシの乳は、本来は子ウシのためのもので、子を産んでから出るようになります。乳牛は、出産から10か月(約305日)ほど乳をしぼられ、1年に1頭ほど子を産むように、くり返し妊娠させられています。品種改良によって、子ウシが飲むよりずっと多くの乳を出すようになりました。
闘牛の牛は赤い色に興奮するの?
赤い色に興奮しているわけではありません。ウシは色の見え方が2色型で、赤と緑の区別が苦手です。闘牛では、赤い色ではなく布が動くのを見て突進します。赤い布は、ウシの血を目立たなくするためと考えられています。
牛はなぜ鼻輪をつけるの?
力の強いウシを、人が安全にあつかうためです。鼻はウシの体でもとくに敏感な所なので、鼻輪を引くとウシを動かしやすくなります。日本の肉牛農家の83.6%で鼻輪がつけられていると推定されていますが、鼻輪はウシのストレスにもなります。
野生のウシはいるの?
ウシの祖先の野生のオーロックスは、1627年に絶滅しました。ただし、飼われていたウシが野生化した「野生化牛」は世界各地にいて、日本でも鹿児島県の口之島に「口之島牛」がすんでいます。

ナゾロジーで読む20本

  1. 01 「家畜」を「4つ目の獣」にして野生動物から守る
  2. 02 牛は「親しんだ人の顔」を見分けられると判明
  3. 03 牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明
  4. 04 牛にも道具を使う力――デッキブラシを多目的用途で使い分けていた
  5. 05 「ウシにVRを装着」して1頭あたりミルク5Lの増産に成功した実験

近いなかまの図鑑

同じ鯨偶蹄目

参考文献

  1. Kojima T ほか (2019) Cows painted with zebra-like striping can avoid biting fly attack. PLOS ONE
  2. Radford C ほか (2020) Artificial eyespots on cattle reduce predation by large carnivores. Communications Biology
  3. Quartinello F ほか (2021) Together Is Better: The Rumen Microbial Community as Biological Toolbox for Degradation of Synthetic Polyesters. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology
  4. Xie F ほか (2026) Rumen ciliates modulate methane emissions in ruminants. Science
  5. Green A ほか (2019) Vocal individuality of Holstein-Friesian cattle is maintained across putatively positive and negative farming contexts. Scientific Reports
  6. Amichaud O ほか (2026) Cows visually discriminate and cross-modally recognise familiar and unfamiliar human faces in videos. PLOS One
  7. Osuna-Mascaró AJ, Auersperg AMI (2026) Flexible use of a multi-purpose tool by a cow. Current Biology
  8. Bollongino R ほか (2012) Modern Taurine Cattle Descended from Small Number of Near-Eastern Founders. Molecular Biology and Evolution
  9. 農林水産省「牛・牛肉のトレーサビリティ」
  10. Wikipedia「ウシ」(日本語版)
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  12. Wikipedia「オーロックス」(日本語版)
  13. Wikipedia「Aurochs」(英語版)
  14. Wikipedia「コブウシ」(日本語版)
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  16. Wikipedia「ホルスタイン」(日本語版)
  17. Wikipedia「黒毛和種」(日本語版)
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  20. Wikipedia「Rumen」(英語版)
  21. Wikipedia「Ruminant」(英語版)
  22. Wikipedia「Horn (anatomy)」(英語版)
  23. Wikipedia「Dairy cattle」(英語版)
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  25. Wikipedia「Bullfighting」(英語版)
  26. Wikipedia「Nose ring (animal)」(英語版)
  27. Wikipedia「牛海綿状脳症」(日本語版)
  28. Wikipedia「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(日本語版)
  29. Wikipedia「牛伝染性リンパ腫」(日本語版)
  30. Wikipedia「口之島牛」(日本語版)
  31. Wikipedia「見島牛」(日本語版)
  32. Wikipedia「牛車」(日本語版)
  33. Wikipedia「スイギュウ」(日本語版)
  34. Wikipedia「Water buffalo」(英語版)
  35. Wikidata「ウシ cattle」(Q830)

表紙の写真: Giles Laurent(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons
ほかの写真のクレジットは、それぞれの写真のページにあります。
この図鑑は、参考文献の資料をもとに、ナゾロジー編集部がまとめています。