遠くに山並みが見える海で、白黒の体をほとんど水の上に出してジャンプするシャチ No.0019

ナゾロジー図鑑 ・ 生き物

シャチ

Orcinus orca

黒と白の体で、世界中の海を泳ぐ。
狩りの技や鳴き声の「方言」を、家族で受けつぐ。

ナゾロジーの記事
41本
おとなのオスの体長
6〜8m
長生きのメスの寿命
70〜80年

シャチは、イルカのなかま(マイルカ科)でいちばん大きい哺乳類です。白黒の体で世界中の海にすみ、群れで協力して魚やアザラシ、クジラなどを狩ります。群れによって鳴き声の「方言」があり、日本では北海道の根室海峡や釧路沖で見られます。

図鑑データ

分類
哺乳類 › 偶蹄目(鯨偶蹄目)› 鯨類 › ハクジラ類 › マイルカ科 › シャチ属
学名
Orcinus orca(シャチ属にいる今の種はシャチだけ)
英名
orca(オルカ)、killer whale(キラーホエール)
漢字
鯱
大きさ
オスはふつう体長6〜8m・体重6トン以上、メスは5〜7m・3〜4トン。オスで9.8〜10mの記録がある
体のつくり
背中は黒、おなかは白。目の上の後ろに白いアイパッチ。オスの背びれは高さ1.8mほど
すみか
世界中の海(北極・南極から熱帯まで)。寒い海や沿岸に多い
日本では
北海道のまわりでよく見られる。根室海峡(羅臼の沖など)や釧路の沖に毎年来る
食べもの
魚、イカ、アザラシ・イルカ・クジラなどの哺乳類、サメ、海鳥など。群れやタイプごとに好みがちがう
群れ
母親を中心にした家族の群れ。定住型では、群れごとに鳴き声の「方言」がある
寿命
子どものころを生きのびた野生のメスは平均46年ほど(まれに70〜80年)、オスは平均30年ほど(長くて50〜60年)
保全状況
IUCN レッドリストで「情報不足」(いくつかの種に分かれる可能性があるため)

シャチとは(イルカ?クジラ?何類?)

シャチは、海にすむ哺乳類です。魚のような形をしていますが、肺で息をし、赤ちゃんを産んで乳で育てます。クジラのなかま(鯨類)のうち、歯をもつ「ハクジラ」にふくまれます。

分類では、ハンドウイルカやカマイルカと同じ「マイルカ科」の一員で、マイルカ科の中でいちばん大きな種です。英語では killer whale(キラーホエール)とも呼ばれますが、分類ではイルカの多くと同じグループに入ります。シャチ属(Orcinus)にいる今の種は、シャチ1種だけとされています。

白く波立つ海で、黒い背びれと白い模様を見せながら、いっしょに泳ぐ10頭ほどのシャチ
北太平洋を泳ぐシャチの群れ写真: Allen Shimada, NOAA/NMFS/OST/AMD(Public domain) / Wikimedia Commons

体は黒と白のはっきりした模様で、おとなを見まちがえることはめったにありません。北極や南極の海から熱帯の海まで、世界中の海にすんでいます。食べものは群れによってちがい、魚を食べる群れもいれば、アザラシやイルカ、クジラなどをおそう群れもいます。海の食物連鎖のいちばん上にいる「頂点捕食者」です。

大きさと体のつくり(何メートル・何トン?)

オスはふつう体長6〜8m、体重は6トンをこえます。メスはひとまわり小さく、体長5〜7m、体重3〜4トンほどです。記録では、オスで9.8〜10m、メスで8.5mに達したものがあり、大きなオスは体重が10トンをこえることもあります。生まれたばかりの赤ちゃんでも、体長は約2.4m、体重は約180kgあります。

  • 模様:背中側はほとんど黒く、下あごからおなかにかけてが白です。目の上の後ろには白いだ円形の「アイパッチ」、背びれの後ろには灰色や白の「サドルパッチ」があります。白いアイパッチは目ではなく、本当の目はアイパッチの前の下あたりにあります。生まれたばかりの赤ちゃんでは、白い部分が黄色やオレンジ色をおびています。
  • 背びれ:オスの背びれは高さ1.8mほどにもなり、メスの2倍以上の大きさです。オスの背びれは細長い三角形、メスの背びれはうしろにカーブした形です。
  • 胸びれ:大きく丸く、オールのような形です。オスのほうがずっと大きくなります。
  • 歯:上下のあごに、円すい形のするどい歯が10〜12対ずつならびます。口を閉じると、上の歯が下の歯のすきまにおさまり、えものをしっかりはさみます。
  • 鼻:鼻の穴は頭のてっぺんにある「噴気孔(ふんきこう)」です。水面に出たときに、ここから息をはいて、すいこみます。

大きなシャチの背中と背びれのすぐ横で、白い部分が黄色っぽい子どものシャチが顔を出している
ジブラルタル海峡のシャチの親子写真: Renauddestephanis(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

灰色の海面から、黒く高い三角形の背びれと背中を出して泳ぐシャチ
高くまっすぐな背びれ写真: Shannon Rankin, NOAA/NMFS/SWFSC(Public domain) / Wikimedia Commons

背びれの形や傷、サドルパッチの模様は1頭ずつちがうため、研究者は写真で個体を見分けています。北太平洋では、何百頭ものシャチが、写真と名前つきで記録されています。

骨格は、イルカのなかまとしてはふつうの形ですが、より頑丈です。皮ふの下には厚さ7.6〜10cmの脂肪の層があり、体温は36〜38℃です。目も耳もよく、イルカのなかまと同じように、音のはね返りでまわりのようすを知る「エコーロケーション(反響定位)」を使います。

天井からつるされた、大きな頭の骨と長い背骨、あばら骨をもつシャチの全身の骨格。あごには太い歯がならぶ
シャチの全身の骨格写真: Lucas.Belo(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

泳ぐ速さは、速いときで時速56kmほどに達します。水面から体ごと飛び出す「ブリーチング」や、尾びれで水面をたたく行動もよく見られます。

白っぽい海面から、胸びれを広げて体の大部分を水の上に出してジャンプするシャチ
ジャンプするシャチ写真: Christopher Michel(CC BY 2.0) / Wikimedia Commons

どこにいる?(日本で見られる所)

シャチは、すべての大洋と、ほとんどの海で見られます。ただし、熱帯の外洋よりも、寒い海や沿岸に多くいます。ノルウェーの沿岸、アリューシャン列島やアラスカ湾のまわり、南極の沿岸などは、とくに数が多い海です。

世界全体の数ははっきりしませんが、2006年の見積もりでは、少なくとも5万頭とされています。地域ごとの見積もりでは、南極の海に約2万5000頭がいるとされます。

日本では(知床・根室海峡・釧路沖)

日本の近くでは、北方四島から北海道のまわりで、とくによく目撃されます。北海道東部では、おもに根室海峡(知床半島の羅臼の沖など)と釧路の沖に、毎年決まった時期にシャチがやって来ます。知床半島では、シャチを見るホエールウォッチングができるほど、見られることが増えています。知床半島では、2019年と2021年に、白いシャチがそれぞれ2頭ずつ確認されました。

遠くに陸地が見える青い海で、高い背びれを水面から出して泳ぐ数頭のシャチ
北海道・羅臼の沖のシャチ写真: kkawamura(CC BY 4.0) / Wikimedia Commons

そのほかにも、仙台湾、相模湾、熊野灘、玄界灘、南西諸島など、日本の各地でときおり目撃されています。ただし、第二次世界大戦のあとから1960年代にかけて、日本各地で1,600頭ほどがとられたため、今の数やすむ範囲は、それより前よりも小さくなっていると考えられています。

北海道のシャチがどんなタイプなのかは、長く分かっていませんでした。2025年12月に発表された研究では、北海道のまわりで集めた25頭のシャチのDNA(ミトコンドリアのゲノム)を調べました。その結果、北太平洋で知られる「定住型(レジデント)」と「回遊型(トランジェント)」という、2つのタイプのシャチがいることが分かりました(タイプについては、あとの「群れ」の見出しで説明します)。ただし、北海道の定住型がどんな魚を食べているかなど、くらしについてはまだよく分かっていません。

ナゾロジーでくわしく北海道のシャチは「2タイプ」に分かれていた

何を食べる?(狩りのしかた)

シャチは、魚、イカやタコのなかま、アザラシやイルカ・クジラなどの哺乳類、海鳥、ウミガメなど、さまざまな動物を食べます。1日に食べる量は、平均で227kgほどとされます。

ただし、どの群れもなんでも食べるわけではありません。地域の群れやタイプごとに、決まったえものを専門にねらうことが多いのです。たとえば北アメリカ西の沖にすむ魚食の群れでは、食べものの96%がサケのなかまで、とくにマスノスケ(キングサーモン)をよく食べます。

緑がかった青い水の中を泳ぐシャチと、その前を逃げる1匹のサケを上から見たようす
サケを追う定住型のシャチ写真: Oregon State University(撮影: John Durban, Holly Fearnbach, Lance Barrett-Lennard)(CC BY-SA 2.0) / Wikimedia Commons

シャチは、群れで協力して狩りをします。オオカミの群れのように集団で狩りをすることから、「海のオオカミ」と呼ばれることもあります。狩りのしかたは、えものによってさまざまです。

  • カルーセル・フィーディング:ノルウェーのシャチは、泡を出したり白いおなかを見せたりして、ニシンの群れを丸く追いこみます。そこを尾びれでたたき、一度に最大15匹を気絶させてから、1匹ずつ食べます。
  • 波で氷から落とす:南極では、氷の上で休むアザラシを見つけると、何頭かでならんで泳いで波を起こし、氷の上から海へ落としてとらえます。
  • 浜に乗り上げる:アルゼンチンのバルデス半島などでは、波打ちぎわのオタリアやゾウアザラシをねらって、わざと浜に乗り上げます。むずかしい技で、若いシャチは何年もかけて練習します。
  • イルカやクジラ:小さなイルカは、つかれ果てるまで追いかけてしとめます。大きなクジラは、子どもをねらうことが多く、追いかけてつかれさせてから、はげしくおそいます。西オーストラリア州の南の沖では、2019年以降、シャチがシロナガスクジラをしとめたようすが3回記録されました。
小さな氷のかたまりがうかぶ海で、氷の上にねそべるアザラシのすぐそばに、2頭のシャチが頭を出している
氷の上のアザラシをねらうシャチ写真: Callan Carpenter(CC BY-SA 4.0) / Wikimedia Commons

サメもねらう

シャチは、サメもえものにします。世界最大の魚ジンベエザメや、ホホジロザメをおそった記録もあります。サメをあおむけにひっくり返して「トニック・イモビリティ」という動けない状態にし、栄養の多い肝臓をねらって食べることが観察されています。シャチが現れると、ホホジロザメがその海から逃げ出すことも知られています。

メキシコのカリフォルニア湾では、2018〜2024年に4回、シャチがジンベエザメをおそって食べるようすが撮影されました。腹びれのあたりをねらって攻撃していて、脂肪の多い肝臓を食べるためと考えられています。4回のうち3回には、「モクテスマ」と名づけられた同じオスがかかわっていました。同じ海では、子どものホホジロザメをくり返しおそい、とり出した肝臓を、子どもをふくむ群れのなかまで分け合うようすも記録されています。

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シャチの天敵は?

おとなのシャチをえものにする動物は、自然の中にはいないとされています。ただし、弱った個体や体の小さな個体が、サメや大きなクジラにおそわれることはあるとされます。

シャチにも、苦手な相手がいます。ヒレナガゴンドウは、シャチの声を聞くと近づいてきて、群れでシャチを追い回すことがあります。2026年に発表された研究では、体にセンサーをつけた8頭のシャチに、ヒレナガゴンドウの声を聞かせる実験をしました。するとシャチは、音のする方からすばやくはなれ、群れのなかまどうしが近くにまとまりました。シャチは、ゴンドウの存在を脅威として受けとっているようです。

マッコウクジラのメスの群れは、子どもを囲んで円陣を組み、尾びれを外に向けてシャチを追いはらうことがあります。ザトウクジラの子どもや、ほかの種の動物をおそっているシャチに、ザトウクジラが立ち向かう例も知られています。

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群れと「方言」、エコタイプ

シャチは、母親を中心にした家族で群れをつくります。よく研究されている北アメリカ西の沖の「定住型(レジデント)」では、オスもメスも、一生を母親といっしょにすごします。これは、哺乳類ではめずらしいくらし方です。家族の群れは、いちばん年上のメスと、その息子や娘、娘の子どもたちからなり、平均5.5頭ほどです。近い家族どうしは、さらに「ポッド」というまとまりをつくります。

群れのつくり方は、タイプによってちがいます。哺乳類をねらう「回遊型」の群れは小さく、ふつうはおとなのメスと、その子ども1〜2頭です。オスの中には、決まった群れに入らずに移動しながらくらすものもいます。一方、沖合にすむ「沖合型(オフショア)」は、ふつう20〜75頭の群れで見られます。

シャチは、クリック音、ホイッスル(口笛のような音)、パルス音(くり返す鳴き声)の3種類の音を出します。定住型の群れでは、なかまどうしで似た鳴き声を使い、これを「方言」と呼びます。方言には7〜17種類(平均11種類)の決まった鳴き声がふくまれ、子どもは、なかまとのくらしの中で方言を覚えると考えられています。

一方、哺乳類をねらう回遊型は、ふだんあまり鳴きません。えものになるアザラシなどの哺乳類は、シャチの声をよく聞きとれるからです。定住型がよく鳴くのは、えもののサケがシャチの声に気づきにくいためと考えられています。

エコタイプ(生態型)と、別の種に分ける提案

シャチは世界に1種とされていますが、地域ごとに、食べもの、群れのつくり方、鳴き声、体の形などがちがう集団があります。こうした集団を「エコタイプ(生態型)」と呼びます。北アメリカ西の沖では、魚を食べる「定住型(レジデント)」、哺乳類を食べる「回遊型(トランジェント)」、沖合にすむ「沖合型(オフショア)」の3つが知られています。回遊型は、研究者マイケル・ビッグの名前から「ビッグス」とも呼ばれます。南極の海でも、タイプA〜Dの4つのタイプが記録されています。

白い氷にかこまれた海から、2頭のシャチが頭を高く出している
南極の「タイプC」のシャチの親子写真: Robert Pitman(Public domain) / Wikimedia Commons

タイプのちがいは大きく、別の種や亜種として分けるべきだという意見が以前からあります。国際自然保護連合(IUCN)も2008年に、シャチはいくつかの種か、少なくとも亜種に分けられる可能性が高い、としています。

2024年には、研究チームが、北太平洋の東部にすむ定住型を「Orcinus ater」、回遊型を「Orcinus rectipinnus」という別の種にするべきだ、と提案しました。ただし、海の哺乳類の研究者の学会(Society for Marine Mammalogy)は、別の種とまではみとめず、ひとまず亜種としてあつかっています。シャチを何種に分けるかは、まだ決まっていません。

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胃の中から別のシャチが見つかった例はありますが、捕鯨で捨てられた死体を食べた可能性が高いとされています。一方、2026年の研究では、北太平洋で、哺乳類を食べる回遊型のシャチが、定住型のシャチを食べたことを示す証拠が報告されました。研究者は、これを「共食い」というより、生態のちがう集団どうしの、別の種のあいだの捕食と考えるほうがよい、としています。

頭のよさと「文化」

シャチの脳は、海の哺乳類の中で、マッコウクジラに次いで2番目に重いとされています。なかまの行動をまね、狩りの技を家族にわざと教えているように見えることもあります。飼育されているシャチを使った2018年の実験では、なかまの鳴き声だけでなく、人の言葉の音も、聞き分けられるくらいにまねることができました。

2025年には、北太平洋の東部にすむ定住型のシャチが、大きな海藻(ブルケルプ)の茎をちぎって、なかまどうしで体をこすり合う「毛づくろい」の道具として使っていることが報告されました。また、野生のシャチが、ボートや海の中、岸にいる人に、魚などのえものを差し出したような例も、4つの大洋で34件まとめられています。

このように、群れごとにちがう方言や狩りのやり方が、世代から世代へと受けつがれています。研究者は、これを動物の「文化」の一つと考えています。

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シャチは人を襲う?

西洋では昔、シャチはどう猛でおそろしい動物と考えられていました。けれども、野生のシャチが人をおそったと確かめられた例はごくわずかで、人が亡くなった例は記録されていません。

知られている例としては、1970年代にアメリカのカリフォルニアでサーファーがかまれたもの(シャチはすぐにはなれました)や、2005年にアラスカで、アザラシの多い場所で水遊びをしていた少年が、シャチにぶつかられたものがあります。少年の例は、えものとまちがえたためとみられています。

ヨットの舵(かじ)をねらうシャチ

2020年ごろから、ヨーロッパのイベリア半島の沖(ジブラルタル海峡や、ポルトガル・スペイン・モロッコの沖)で、シャチがヨットにぶつかったり、舵をかんだりする出来事が相次いでいます。2020〜2023年の間に、およそ500件の接触が報告され、沈んだ船もあります。ただし、これまでにけがをした人はいません。

このあたりのシャチは、2011年の調査で39頭しかいない小さな集団です。なぜ船をねらうのかは分かっておらず、過去にいやな目にあったことへの仕返しや防衛なのか、遊びなのか、専門家の意見は分かれています。

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水族館では

一方、水族館などで飼育されているシャチは、1970年代から20回ほど人をおそい、飼育員が亡くなった事故も起きています。飼育されていたオスの「ティリクム」は、1991〜2010年の間に3人の死にかかわりました。

寿命と閉経(おばあちゃんシャチの役わり)

野生のシャチは長生きです。子どものころを生きのびたメスは平均46年ほど生き、まれに70〜80年生きます。オスはメスより短く、平均30年ほど、長くて50〜60年です。年齢は推定ですが、90歳をこえたとみられるメスもいます。一方、飼育されているシャチは、平均すると20代までしか生きないとされます(飼育下と野生で生きのこる割合に大きなちがいはない、とする研究もあります)。

メスは10〜13歳ごろからおとなになりはじめ、20歳ごろにいちばん子どもを産みやすくなります。発情をくり返す時期と、3〜16か月の発情しない時期があります。オスは15歳ごろにおとなになりますが、ふつう21歳ごろまでは子どもをつくりません。オスはふつう、ほかのポッドのメスと交尾します。ただし、北アメリカ西の沖の「南部定住型」では、近い血縁どうしで子どもをつくった例も見つかっています。

妊娠期間は15〜18か月と長く、母親はふつう5年に1度ほど、1頭の子を産みます。定住型では、子どもは一年中生まれますが、いちばん多いのは冬です。生まれた子の37〜50%は、生後7か月までに死んでしまいます。乳ばなれは生後12か月ごろに始まり、2歳までに終わります。

メスは40歳ごろまで子を産むことが多く、そのあとは子を産む力が急に下がります。そして、それから何十年も生きます。人のように「閉経」したあとも長く生きる動物は、とても少ないのです。閉経が何度も別々に進化した哺乳類のグループは、ハクジラのなかまだけだとされています。

閉経したメスは、家族の役に立っていることが分かってきました。

  • えさ場への案内役:サケを食べる定住型のシャチでは、閉経した年齢のメスが、群れの先頭に立つことが多く、サケが少ない年ほどその傾向が強くなります(2015年の研究)。経験からえさ場をよく知っているためと考えられています。
  • 孫の生きのこり:閉経したおばあちゃんがいると、孫が生きのこりやすくなります。とくにサケが少ない年に、その効果が大きくなります(2019年の研究)。
  • 息子を守る:閉経した母親がいると、息子の体にある、なかまの歯による傷あとが少なくなります。娘では、このちがいは見られませんでした(2023年の研究)。

母親は、大人になった息子の世話も続けます。北アメリカ西の沖の「南部定住型」を何十年も調べた研究では、離乳したあとも生きている息子が多い母親ほど、育つ子を産む年ごとの確率が低くなっていました。息子の世話には、母親にとって大きな負担があると考えられています(2023年の研究)。

ナゾロジーでくわしくシャチが長生きするのは「孫のため」だった

名前の由来と人とのかかわり

シャチは日本語の名前(和名)で、漢字では「鯱」と書きます。お城の屋根にのる飾りの「しゃちほこ(鯱)」と同じ字です。鯱は、頭が龍や虎、体が魚という想像上の生き物で、名古屋城の金の鯱などが知られています。シャチの名前はこの鯱からきたといわれることがありますが、「しゃち」という呼び名は、海の動物のシャチに使われてきたほうが古い、とする資料もあります。「サカマタ」などの別名もあります。

青空を背に、尾を高く上げた金色の鯱の飾りと、その下の屋根にとまる黒い鳥
名古屋城の金の鯱(しゃちほこ)写真: 名古屋太郎(CC BY-SA 3.0) / Wikimedia Commons

英語では orca(オルカ)、または killer whale(キラーホエール)と呼ばれます。killer whale は、昔の船乗りが、シャチが大きなクジラをおそうのを見て「クジラ殺し」と呼んだことばが、英語で入れかわって「殺し屋クジラ」になったものとされます。1960年代からは、orca という呼び名がよく使われるようになりました。学名の Orcinus は、ラテン語の orca(ふくらんだ壺の意味)をもとにしたことばです。

北海道のアイヌの人びとは、シャチを「レプンカムイ(沖の神)」と呼び、うやまってきました。シャチがクジラを追って浜に打ち上げ、食べものをもたらしてくれると考えられていたためです。オーストラリアのイーデンでは、19世紀の終わりから20世紀のはじめにかけて、「オールド・トム」と呼ばれたシャチとその群れが、人のクジラ漁を手伝っていました。

一方で、人は、シャチを捕鯨や駆除の対象にもしてきました。1954〜1997年には、日本で1,178頭、ノルウェーで987頭がとられています。今では、大規模にシャチをとっている国はありません。

シャチは水族館でも人気の動物です。鴨川シーワールドでは1970年からシャチを飼育していて、1998年には、飼育下での日本初の繁殖に成功しました。2024年6月の時点で、シャチがいる日本の水族館は、鴨川シーワールド、名古屋港水族館、神戸須磨シーワールドの3か所で、飼われているシャチはすべて血縁関係にあります。一方で、群れでくらし、1日に最大160kmも移動することがあるシャチを飼育することには、反対の声もあります。

プールのふちに体を乗り上げ、尾びれを高く上げたシャチ。白い壁を背に、頭から尾までの全身が見える
鴨川シーワールドのシャチ写真: Syced(CC0) / Wikimedia Commons

シャチは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「情報不足」とされています。いくつかのタイプが別の種かもしれないためです。地域によっては、数がとても少ない集団もあります。北アメリカ西の沖の「南部定住型」は、2005年にアメリカで絶滅危惧種に指定され、2019年初めの時点で75頭しか残っていませんでした。えもののサケの減少や、PCBなどの化学物質による汚染、船の騒音などが心配されています。

よくある疑問

シャチは何類? イルカ? クジラ?
シャチは哺乳類です。クジラのなかま(鯨類)のうち歯をもつ「ハクジラ」にふくまれ、分類ではハンドウイルカなどと同じマイルカ科の一員で、マイルカ科でいちばん大きな種です。魚とちがって肺で息をし、赤ちゃんを産んで乳で育てます。
シャチの大きさは? 何メートル・何トン?
オスはふつう体長6〜8m・体重6トン以上、メスは体長5〜7m・体重3〜4トンほどです。記録ではオスで9.8〜10m、メスで8.5mのものがあり、大きなオスは10トンをこえることもあります。
シャチは人間を襲うの?
野生のシャチが人をおそったと確かめられた例はごくわずかで、人が亡くなった例は記録されていません。ただし、飼育されているシャチが人をおそい、亡くなった人が出た事故はあります。2020年ごろからは、イベリア半島の沖でシャチがヨットの舵をねらう出来事が続いていますが、けがをした人はいません。
シャチの天敵はいるの?
おとなのシャチをえものにする動物は、自然の中にはいないとされています。ただし、ヒレナガゴンドウはシャチを群れで追い回すことがあり、シャチはその声を聞くと、すばやくはなれることが実験で確かめられています。マッコウクジラやザトウクジラが、群れでシャチに立ち向かうこともあります。
シャチの寿命は? 何歳まで生きる?
野生では、子どものころを生きのびたメスは平均46年ほど、まれに70〜80年生きます。オスは平均30年ほど、長くて50〜60年です。飼育されているシャチは、平均すると20代までしか生きないとされます。
野生のシャチは日本のどこで見られる?
北海道のまわりで、とくによく見られます。北海道東部では、根室海峡(知床半島の羅臼の沖など)と釧路の沖に、毎年決まった時期にやって来ます。そのほかの海でも、ときおり目撃されています。
シャチがいる日本の水族館は?
2024年6月の時点では、鴨川シーワールド、名古屋港水族館、神戸須磨シーワールドの3か所です。鴨川シーワールドでは、1970年からシャチを飼育しています。
なぜシャチを「オルカ」と呼ぶの?
英語でシャチを orca(オルカ)と呼ぶためです。古代ローマの人びとがこの動物を呼んだラテン語の orca がもとになっていて、1960年代からは killer whale(キラーホエール)より orca がよく使われるようになりました。学名も Orcinus orca です。

ナゾロジーで読む41本

  1. 01 シャチでさえ遭遇を避ける「海の生物」がいた
  2. 02 シャチがマンボウを「こっぱ微塵」にする衝撃行動を発見
  3. 03 頭が良すぎてちょっと怖い!シャチの驚くべき4つの行動
  4. 04 「シャチ同士の共食い」が発生か? 2つの集団が衝突した可能性
  5. 05 北海道のシャチは「2タイプ」に分かれていた

参考文献

  1. Morin PA ほか (2024) Revised taxonomy of eastern North Pacific killer whales (Orcinus orca): Bigg’s and resident ecotypes deserve species status. Royal Society Open Science
  2. Suzuki M ほか (2026) Whole Mitochondrial Genome Analysis of Killer Whales Reveals the Presence of Resident and Transient Ecotypes Around Hokkaido. Marine Mammal Science
  3. 京都大学・北海道大学ほか (2026) プレスリリース「北海道の海には2タイプのシャチがいる」
  4. 大泉宏 (2022) Uni-HORP による北海道東部海域でのシャチの生態研究. 日本哺乳類学会2022年度大会 公開シンポジウム講演要旨
  5. Pancaldi F ほか (2024) Killer whales (Orcinus orca) hunt, kill and consume the largest fish on Earth, the whale shark (Rhincodon typus). Frontiers in Marine Science
  6. Higuera-Rivas JE ほか (2025) Novel evidence of interaction between killer whales (Orcinus orca) and juvenile white sharks (Carcharodon carcharias) in the Gulf of California, Mexico. Frontiers in Marine Science
  7. Selbmann A ほか (2026) Aversive behavioural responses of killer whales to sounds of long-finned pilot whales. Scientific Reports
  8. Filatova O ほか (2026) Predation by Mammal-Eating Bigg’s Killer Whales (Orcinus orca rectipinnus) May Shape the Unique Social Structure of “Resident” Fish-Eating Killer Whales (O. o. ater) in the North Pacific. Marine Mammal Science
  9. Abramson JZ ほか (2018) Imitation of novel conspecific and human speech sounds in the killer whale (Orcinus orca). Proceedings of the Royal Society B
  10. Weiss MN ほか (2025) Manufacture and use of allogrooming tools by wild killer whales. Current Biology
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  12. Ellis S ほか (2024) The evolution of menopause in toothed whales. Nature
  13. Brent LJN ほか (2015) Ecological Knowledge, Leadership, and the Evolution of Menopause in Killer Whales. Current Biology
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  15. Grimes C ほか (2023) Postreproductive female killer whales reduce socially inflicted injuries in their male offspring. Current Biology
  16. Weiss MN ほか (2023) Costly lifetime maternal investment in killer whales. Current Biology
  17. Wikipedia「シャチ」(日本語版)
  18. Wikipedia「Orca」(英語版)
  19. Wikipedia「Orca types and populations」(英語版)
  20. Wikipedia「Iberian orca attacks」(英語版)
  21. Wikipedia「Blowhole (anatomy)」(英語版)
  22. Wikipedia「鯱」(日本語版)
  23. Wikipedia「知床半島」(日本語版)
  24. Wikidata「シャチ Orcinus orca」(Q26843)

表紙の写真: NOAA Photo Library(Public domain) / Wikimedia Commons
ほかの写真のクレジットは、それぞれの写真のページにあります。
この図鑑は、参考文献の資料をもとに、ナゾロジー編集部がまとめています。