どうして大きい哺乳類ほど顔が長いの?
生物学者は以前から、哺乳類のうちに「大きい種ほど顔が長くなり、小さい種ほど顔が短くなる」傾向があることを知っていました。
これを専門用語で「頭蓋顔面進化アロメトリー(craniofacial evolutionary allometry:CREA)」と呼びます。
CREAは一般的に、同じグループ内の小型種と大型種の比較において言及されるものです。
例えば、同じウシ科のヒツジとウシ、同じネコ科のネコとトラ、同じカンガルー科のワラビーとカンガルーなどを比べると、決まって大型種の方が顔や鼻先が長くなっています。
CREAはあらゆる哺乳類に普遍的に見られる一方で、生物学者はその理由を説明できる枠組みを持っていませんでした。
しかし今回の研究チームは、哺乳類の頭蓋骨や食性に関するデータを総合的に分析する中で、「どのように顔を使って食べるか」というシンプルな生体力学でCREAを説明できることに気づきました。
その前提にあるのは、同じグループ内の小型種と大型種が基本的に同じような物を食べているという点です。
ヒツジとウシは同じ干し草を、ワラビーとカンガルーは牧草や草木を、ネコとトラは共に肉類を食べます。
つまり、近縁の小型種と大型種は同じような物を食べるのに、異なる摂食戦略を取っているのです。
それが「顔の長さを変える」ことなわけですが、チームによるとその理由もしごく単純でした。
小型種はそもそも体が小さいために、顔まわりの筋肉量も自然と少なくなります。
すると噛む力も小さくなるので、口先の長さを短くして噛む力を高めていたのです。
反対に、大型種は体が大きいために、顔まわりの筋肉量も発達しており、わざわざ顔を短くしなくても噛む力は十分に備わっています。
それゆえ、近縁の小型種が食べるような物であれば、顔が長くても余裕をもって食べられるのです。
チームはこれを”トングの持ち手”に例えます。
バーベキューの際にお肉をトングでつかむときは普通、持ち手の末端部分を持ちますよね。
それも十分につかめますが、どっしりと大きなステーキをひっくり返すときはトングの挟む力をより強くしなければなりません。
その場合はトングの先端に近い部分を持つことで挟む力を強くできます。
要するにトングの持ち手と挟む部分の間の長さが、哺乳類のアゴの付け根と歯の間の長さに対応するのです。
これは簡単な「てこの原理」に従っています。
となると、哺乳類は噛む力が元から十分に備わっているのであれば、顔を長くしたい生き物のようですが、そのメリットはどこにあるのでしょうか?