昆布を「選び」「ちぎって」「活用」、道具づくりの証拠
この研究を主導したのは、米クジラ研究センター(CWR)とエクセター大学の研究者たちです。
彼らが観察していたのは、絶滅が危惧される「サザンレジデント」と呼ばれるシャチの小さなグループで、現在その数はわずか73頭。
1970年代から世界で最も詳しく研究されてきた群れです。
チームは近年のドローン技術を活用し、海上からシャチの自然な行動を高精細に記録する手法を取り入れていました。
そしてある日、研究者の一人が、2頭のシャチが互いに接触しながら昆布を体の間に挟んでこすり合っている様子を発見したのです。

観察によると、シャチたちは「オオウキモ」と呼ばれるコンブ科の海藻の先端を自ら噛みちぎり、茎の部分を体と体の間に挟んで転がすようにこすり続けていました。
昆布の茎は中が空洞でしなやか、それでいて表面は滑らかで、まるで水を詰めたホースのような性質を持っており、グルーミング(毛づくろい)には最適な素材といえます。

この一連の行動は新たに「アロケルピング(allokelping)」と名付けられました。
“アロ(allo)”は「他者と共同で」という意味、”ケルプ(kelp)”は「昆布」という意味で、すなわち仲間同士で昆布を使って体をこする行動を意味します。
これまでにもイルカが海綿を使って口先を保護する行動や、シャチが海岸の石に体をこすりつける行動は知られていましたが、「仲間との共同作業」「道具の加工」「反復利用」といった要素がすべて揃った事例は、海洋哺乳類としては前例がありません。
このアロケルピングは単なる遊びではなく、意図的に対象を選び、仲間と協力しながら繰り返し行う、高度な社会的行動だと考えられます。
では、この奇妙な昆布グルーミングには、どのような目的があるのでしょうか?