絶滅危惧種「ミナミシャチ」
シャチはマイルカ科に属する海獣で、日本では「サカマタ」とも呼ばれます。
シャチは魚やサメだけでなく、ヒゲクジラやシロナガスクジラを含む大きなクジラまで幅広い獲物を捕食します。
メスを中心とした母系社会を持つ社会的な動物で、オスが50歳〜60歳、メスが80歳〜90歳と、とても長い寿命を持っています。
平均的な体長は5m〜7mほどですが、オスは最大で9.8m、10トンになることもあります。
特徴的なパンダのような白黒の模様は、仲間同士の位置確認に使われたり、獲物に進行方向を誤認させたり、自身の体を大きく見せたりする効果があるとされています。
シャチは世界中の海に生息していますが、生物学的には1種のみとされています。
ただいくつかの異なるグループに分かれており、これらのグループは遺伝的特徴だけでなく、見た目や行動、社会的関係、食事の内容、鳴き声もそれぞれ異なります。
北太平洋東部には、「アラスカ」「北部」「南部」という3つのシャチのグループが存在しています。
この中でも最も小さなグループは南部であり、このグループに属するシャチは「ミナミシャチ(Southern Resident killer whales)」と呼ばれます。
ミナミシャチは絶滅の危機に瀕しており、その数はわずか75頭しか確認されていません。
ミナミシャチの繁栄は、同じく絶滅危惧種であるマスノスケ(英名:キングサーモン)と密接な関係があります。マスノスケを主食とするミナミシャチは、マスノスケが十分に存在しないと、絶滅リスクが高まるのです。
そんな絶滅の危機と隣り合わせの中、ミナミシャチは奇妙な行動をとっています。
それが小さなイルカの種ネズミイルカに嫌がらせをするというものでした。
ネズミイルカを食べずに殺すミナミシャチ
ネズミイルカは小型のイルカで、主に海洋の沿岸や河口に生息し、河川を数百km遡上することが知られています。
雄よりも雌がやや大きく、成熟した雌の体長は約1.7m、体重は約75kgになり、野生での寿命はおおよそ20年程度で、日本では現在、北海道のおたる水族館でのみ飼育されている非常に珍しいイルカです。
そんなネズミイルカに対し、太平洋岸北西部では何十年もの間、ミナミシャチが嫌がらせをし、さらには食べないにも関わらず殺しているのが観察されてきました。
論文では次のようなシャチの様子が報告されています。
ネズミイルカを口加える様子。
ネズミイルカを頭やお腹に乗せて運びながらバランスを取る様子。
ネズミイルカに体当りしたり、投げ飛ばす様子。
研究者たちは長い間、ミナミシャチがなぜネズミイルカにこのような嫌がらせするのか頭を悩ませてきました。
この疑問に答えるため、ジャイルズ氏ら研究チームは、1962年から2020年までの間に報告された78の事例を詳しく調べたのです。