家畜が捕食動物に襲われてしまうことは、牧畜業者にとって大きな悩みのタネになっています。
予防策としてのフェンス設置はお金がかかりますし、かと言って捕食動物を殺めるのは人道的に許されません。
しかし、ニュー・サウス・ウェールズ大学(オーストラリア)により、一銭もかからない斬新なアイデアで家畜を守る新たな方法が編み出されました。
その方法は、「牛のお尻に目のペイントを施す」というもの。
子供だましのようなこの方法が、実証テストで驚くべき効果を発揮したのです。
捕食動物の習性を利用した「目のペイント」
実験対象となったのは、アフリカ南部・ボツワナの「オカバンゴ・デルタ」で放牧されている牛です。
オカバンゴ・デルタは、世界最大の内陸湿地として知られ、ボツワナの農業収入の8割を占める重要な放牧地となっています。しかし、その大自然ゆえにライオンやヒョウ、ハイエナといった捕食動物も実に豊富です。
放牧されている牛の数は、長く続く干ばつのせいで水や草原が不足し、徐々に減少。加えて、この状況が捕食動物を必死の狩りに追い立て、さらに牛の数が減っています。
統計によると、ボツワナの牛の数は、2011年の250万頭から2015年には170万頭まで激減しているのです。
そこで研究チームは「ライオンやヒョウの捕食習性を利用すれば、お金をかけずに牛を守れるのではないか」と考えました。
捕食動物は通常、ターゲットに気づかれないよう待ち伏せし、背後からそっと近づいて一気に仕留める方法をとります。しかし、自分たちの位置がすでにバレていると思ったら、狩りを放棄する傾向にあるのです。
研究チームは、この習性を利用して、昆虫や鳥類に見られる「アイ・スポット」を試してみました。これは、羽や背中に目のような模様を持つことで、天敵を遠ざける効果があります。
チームは、地元の牧畜業者と協力して、襲撃を受けた経験のある14の異なる牛の群れにペイントを施しました。4年にわたる研究の中で、計2061頭の牛が参加しています。
実験では、「お尻に目のペイント」と「バツ印のペイント」、「ペイントなし」の3パターンを試しました。その結果、目のペイントに絶大な効果が見られ、牛はほぼ100%の確率で襲われなくなったのです。
驚くことに、襲撃の成功率は、ヒョウで38%、ライオンで25%にまで落ちていました。また興味深いことに、バツ印にも、目のペイントほどではないものの、かなりの効果が確認されています。
研究主任のニール・ジョーダン博士は「この結果は、捕食者が獲物に見られている状態を作り出すことで、狩りを断念するという私たちの仮説を裏付けるもの」と話しました。
巧みなアイデア一発で家畜を守る、素晴らしい研究内容ではないでしょうか。
研究の詳細は、8月7日付けで「Nature Communications Biology」に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s42003-020-01156-0