乳糖分解能力は飢饉や病気を生き残るためにわずか数千年で獲得された

現在、北欧出身の成人の多くは不快感なしにミルクを飲むことができます。
しかし日本をはじめとする世界各地には、ミルクを飲み過ぎるとお腹に問題を抱えてしまう人が存在します。
問題の原因は、ミルクに含まれる「乳糖」と呼ばれる成分です。
私たち人間は赤ちゃんのときには母乳に含まれる乳糖を分解する能力があります。
ですが北欧など一部の地域以外に住む人々は、大人になるにつれて乳糖分解能力を失っていき、3分の2が乳糖不耐症と呼ばれる状態に陥ってしまいます。
つまりミルクの飲み過ぎでお腹が「ゴロゴロ」してしまうようになるわけです。
一方、3分の1の人々は乳糖分解能力にかかわる遺伝子が変異しており、乳糖分解酵素の分泌が大人になっても維持できることが知られています。
これまでの研究では、乳糖を分解できる遺伝子変異は人類が家畜の乳製品を利用するようになった9000年前から、徐々に人々の間に広がり、現在の3分の1まで達したと考えられていました。
乳糖を分解する能力があれば、乳製品を大量消費することが容易になり、栄養状態が改善して生存能力が上がると思われていたからです。
しかしこの説は因果関係を予測しているだけで、具体的な裏付けがあるわけではありませんでした。
そこでブリストル大学の研究者たちは、554の考古学的遺跡から1万3181点の陶器断片を収集し、動物性脂質の痕跡を調査しました。
また同時に1700人以上の先史時代の人々のDNAを調査し、乳糖分解能力を授ける遺伝子が、人々の間でどのように広がっていったかを調べました。
結果、人類が家畜の乳製品の利用を開始したのが9000年前(紀元前7000年)であった一方で、乳糖分解能力を授ける遺伝子が登場したのが5000年前(紀元前3000年)であり、人々の間に広く普及したのは3000年前(紀元前1000年)になってからだということが判明します。
つまり既存の説のように乳糖分解能力は、乳製品の利用に従って徐々に遺伝子が拡散したのではなく、5000年前に何かのキッカケで突然出現し、その後現在に至る間に急速に拡散していたのです。
乳糖分解能力がこのように突然現れ急速に拡散した理由については、乳製品の高い栄養価だけでは説明しきれません。
さらに乳製品の使用開始時期と乳糖分解能力が獲得された時期を比較したところ、ほとんど相関関係がないことが判明します。
つまり遺伝的にも考古学的にも、既存の説が通用しなかったのです。
では乳製品の使用開始と無関係に、なぜ人類はこの能力を獲得し、それが急速に広まることになったのでしょうか?
そこで研究者たちは、ある状況を想定した2つシミュレーションを実行して、この問題を検証することにしました。

























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