極限状態ではミルクで死亡率が上昇する
今回の研究により、乳糖分解能力を与える遺伝子が乳製品の利用に付随した「穏やかな進化」によって獲得されたものではなく、飢饉や感染症の蔓延といった厳しい状況で大量の犠牲者を出す「厳しい進化」によって、獲得されていったことが示されました。
農作物が全滅する飢饉においては、家畜によって植物から変換されるミルクを大量に飲んでカロリーを補う必要があるため、乳糖分解能力は必須となります。
また乳糖分解能力がない場合、腸内に乳糖が高濃度に蓄積して結腸に水を引き込むことが知られており、下痢を伴う感染症を悪化させ、脱水症状を経て命が脅かされます。
ミルクを発酵させることで乳糖を減少させる効果が見込めますが、先史時代の人々の場合、そのまま飲んでいた可能性が高く、乳糖による悪影響はより深刻だったと考えられます。
そのため研究者たちは、飢饉や感染症の蔓延する状態ではミルクを摂取することが死亡率の上昇につながり、乳糖分解能力を与える遺伝子を持つ人だけが生き残る厳しい淘汰を発生させたと結論しています。
また追加の調査で、現在の人々の乳糖分解能力のアル・ナシと健康状態を比較したところ、目立った違いがないことが判明しました。
このことから研究者たちは、通常の健康状態では乳製品の摂取が健康状態に影響を与えず、自然淘汰を起こす要因にはなり得ないことを示します。
ある種が特定の形質を急速に獲得する場合、その陰には多くの犠牲がつきものになっています。
もし今度ミルクを飲んでみることがあったら、私たちの先祖が支払った犠牲に思いをはせてみるのもいいかもしれません。