乳糖分解能力は悲惨な状況を生き抜くために獲得された
研究者たちが新たに想定したのは、「飢饉」と「下痢を伴う感染症」の蔓延した暗い状況でした。
乳糖分解能力がない人でも、食べ物が豊富にある状況では、ミルクを飲み過ぎて下痢になっても死ぬことはありません。
しかし農作物が全滅して飢饉が起きた場合、カロリーを補うためミルクを飲み過ぎれば命を脅かすことになります。
同様に下痢を伴う感染症が蔓延して消化器系がダメージを受けている状態で、ミルクがさらに下痢を誘発した場合でも、生存が脅かされます。
そのため研究者たちは、人口の増減と人口密度をそれぞれ飢饉と感染症のパラメータとして、それぞれの状況下での乳糖分解能力の遺伝子の増加率を調べました。
結果、通常の選択圧と比較して、飢饉は689倍、感染症の蔓延は289倍も乳糖分解能力を与える遺伝子を持つ人々を増加させる効果があることが判明しました。
この結果は、乳糖分解能力は飢饉や感染症の蔓延など危機的な状況において、人類が大量の犠牲をともなう淘汰を生き抜く過程で得られたことを示します。
乳糖分解能力がなければカロリーを補うレベルの乳製品を摂取できず、乳製品をとることで下痢をともなう感染症を悪化させる可能性があるからです。