「40万人超のデータで、“未経験”を多面的にとらえる」
多くの人は人生の中で、恋愛を経てセックスを経験することになります。しかし、一部の人は人生で一度もセックスを経験しません。
日本でもこうしたセックス未経験の人について定期的に調査されていて、その割合は年々増えている傾向がありますが、これは若年層の調査が中心です。
ではもっと幅広い年齢層で、生涯の経験率を調べた場合どうなるのでしょうか?
そこで今回の研究チームは、生涯セックスを経験しない人の背景に何があるのか、共通する点があるのか、という点を、中年期以降の年代も多く含む大規模サンプルを用いて調査することにしました。
用いられたデータは、英国バイオバンク(UK Biobank)の約40万人(39~73歳中心)と、独立したオーストラリアの18~89歳のサンプル約1万3千人です。
ここには「初めて性交をした年齢は?」という質問項目があり、今回の研究ではこの問いに「未経験」と回答した人を“未経験者”として定義しました(性交には膣・口・肛門での性行為を含む)。
するとこの数十万人規模のデータでは、約1%の人が「人生で一度もセックスを経験したことがない」と答えていたのです。
なお自己申告の回答なので、当然ここには虚偽の回答(見栄で「ある」と答えたり、逆に恥ずかしくて「無い」と答える)が含まれる可能性はありますが、研究チームはサンプルの規模が大きいため、その影響は全体の傾向を揺るがすほど大きくはならないと考えています。
解析ではまず、英国データから健康・心理・睡眠・運動・嗜好など250項目超を選び、各項目とセックス“未経験”の関連を統計的に検証しました。
また比較のため、経験者の中で「子どもがいない(childlessness)」と回答した人との違いや、回答者の「現在の居住地」の影響(男女比や、所得格差を表すジニ係数(Gini coefficient:0に近いほど平等、1に近いほど不平等))が、未経験率とどう関係するかも検討しました。
さらに、遺伝的背景の解析として、ゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study;GWAS)を実施しました。
GWASは、数百万カ所の遺伝子の個人差(SNP:一塩基多型)を一度に見渡し、「どの遺伝的要因が統計的に結びついているか」を探索する方法です。
今回のGWASは約1060万のSNPを対象に行われ、未経験という性質がどの程度“遺伝で説明できるか”(SNP遺伝率)も推定しています。
このように、今回の研究は大規模なデータを使って、セックス“未経験”の人にどんな共通項が存在するかを、多角的に調査したのです。