「世界最古の星図」に存在しない星が描かれていた可能性がある
「世界最古の星図」に存在しない星が描かれていた可能性がある / Credit:Possible stellar asterisms carved on a protohistoric stone
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「世界最古の星図」に存在しない星が描かれていた可能性がある

2025.09.16 18:00:17 Tuesday

イタリアのトリエステ天文台(INAF)、宇宙基礎物理学研究所(IFPU)、ヴェネツィアのカ・フォスカリ大学、アブドゥス・サラム国際理論物理学センター(ICTP)の共同研究により、イタリア北東部のルピンピッコロ遺跡から見つかった青銅器時代〜鉄器時代の石板に刻まれた跡が、約2400年前〜3800年前の可能性がある「世界最古の星図」の可能性があることが発表されました。

この石板には、さそり座の尾、オリオン座、プレアデス星団(すばる)、さらに裏面にはカシオペヤ座とみられる星座の形が描かれており、実際の星の配置と統計的にも高い精度で対応しています。

これは単なる象徴ではなく、観測で見た星空の位置を写し取ろうとした記録の可能性があり、素朴な測角と根気を用いた制作であっても、当時の人々が夜空を注意深く観察していたことを示しています。

一方、オリオン座のそばにある一つの刻み跡は現代の星空には対応する星がなく、研究者たちは失敗超新星由来の見えなくなった残骸の可能性もあると述べています。

この謎の刻み跡の正体はいったい何だったのでしょうか?

研究内容の詳細は『Astronomische Nachrichten』にて発表されました。

Possible stellar asterisms carved on a protohistoric stone https://doi.org/10.1002/asna.20220108

星空を写した29の刻み跡の正体

「世界最古の星図」に存在しない星が描かれていた可能性がある
「世界最古の星図」に存在しない星が描かれていた可能性がある / Credit:Possible stellar asterisms carved on a protohistoric stone

北イタリア、トリエステ近郊の丘陵要塞「Castelliere di Rupinpiccolo」の遺跡入口で、直径およそ50センチの円盤状の石が二つ見つかりました。そのうち一方の円盤には、表面に24点、裏面に5点、あわせて29個のノミ痕が刻まれていました。

もう一枚の円盤は刻みがなく、先行研究に基づき「太陽を表す石」という解釈が提案されています。

これら29個の刻み跡のうち、28点は夜空に見える明るい々とよく対応しています。具体的には、さそり座の尾、オリオン座の三ツ星やベテルギウス、リゲルなど、プレアデス星団(すばる)、さらに裏面の5点はカシオペヤ座に近い形を示しています。

この石盤を現代の天体シミュレーションソフト(Stellarium等)で再現すると、紀元前1800年~紀元前400年(約2400年前〜3800年前)ごろのこの地域の夜空に、これらの星々が実際に見えていたことが裏付けられています。

たとえば、Theta Scorpii(サルガス)は現在この緯度では地平線下になることが多いですが、当時は歳差の影響で位置が高く、視認可能だった可能性があります。

その一方で、29個目の刻み跡は既知の星のどれにも満足に対応しません。既知星(μ Ori、ε Sgrなど)の候補も検討されましたが、位置が一致せず、失敗超新星由来の見えなくなった残骸という仮説が提示されています。

コラム:「失敗超新星」とは何か?

星はその一生の最後に大爆発を起こすことがあります。これを「超新星爆発」と呼び、とても明るく輝きます。しかし、宇宙には「爆発に失敗した超新星」もあります。これが「失敗超新星」です。通常、大きな星は寿命が尽きると、自分自身の重力に耐えきれなくなり、中心部が急激につぶれてしまいます。この瞬間、星の外側は猛烈な勢いで宇宙空間に吹き飛ばされ、大きな爆発となるのです。ところが、星によっては、中心部分がつぶれてブラックホールができるものの、外側への爆発がほとんど起きない場合があります。これが失敗超新星です。簡単に言えば、星が静かに姿を消し、代わりにブラックホールだけが残る現象です。この「失敗超新星」は非常に観測が難しいため、宇宙で実際にどれくらい起きているのか、はっきりとは分かっていません。今回、石板に残された謎の刻印が、こうした「消え去った星」を示している可能性もあり、注目されているのです。

また刻み跡の深さや角度、刻みの方向性から、同種の工具で、少人数(同一人物を含む)の連続作業だった可能性が考えられます。

ノミ痕の配置は偶然とは考えにくいほど整合性が高く、統計分析で偶然の配置である可能性は非常に低いという結果が得られています。

この石は、星座や季節の変化を追う道具、つまり暦や農耕の時期を知るための観察記録として使われていた可能性も指摘されています。

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