これは本当に星図なのか、再検証へ
この石盤が「世界最古級候補の星図」とされる意義は非常に大きいものの、慎重に考えるべき点も多くあります。
まず、制作年代の範囲が広いことが大きな課題です。
ルピンピッコロ要塞自体の使用時期は紀元前1800年頃から紀元前400年頃まで幅があり、石盤もこの間のいずれかの時期のものと推定されています。
さらに、同じような形の石が後の時代に使われた墓石の蓋などに似ている点もあり、「絶対に最も古いもの」かどうかはまだ判断できません。
発掘の層の広がりや出土記録が詳細でないこと、後代に再利用された可能性が残っていることも無視できません。
保存状態の問題も重要です。
一部の刻みは石の風化によって浅くなったり消えかけたりしており、本来の形や数が現在の刻み跡から完全には再構築できない部分があります。
これにより、一部の刻みが実は別の星をあらわしていたが削られた可能性や、構図が元々今日残っているよりももっと精緻だった可能性もあります。
特に注目されるのは、既知のどの星にも満足に一致しない一つの刻み跡の存在です。
研究ではこの刻み跡を「失敗超新星由来の見えなくなった残骸」という仮説で扱っていますが、現段階ではただの仮説に留まっています。
今後、この石盤の研究を進めるためには、いくつかの重要な取り組みが期待されています。
まず、同じ時代や地域にある他の遺跡を詳しく調査して、似たような星図や刻み跡がある石がないかを探し、それらを比較することで、この石盤の意味をよりはっきりさせることが望まれます。
また、発掘の記録や土壌の分析、放射性炭素年代測定など、さまざまな科学的手法を用いて石盤の正確な制作年代を絞り込むことも重要です。
さらに、現代のX線や電波望遠鏡を使った詳細な観測や、古い写真や記録との比較を通じて、「現在は見えない星」や「失われた星の刻み跡」の痕跡を探す研究も進められるでしょう。
また、この石盤が使われていた時代の地平線の見え方や気候、星の出入り(ヘリアカル・ライズ)といった季節を知るための実用性についても詳しく調べていくことで、石盤が単なる装飾ではなく、当時の人々が農作業や季節を知るための大切な道具として使っていた可能性も確認できるかもしれません。
研究を行った著者たち自身も、現時点ではまだ解釈に不確かさが残ることを認めており、「さらなる証拠を集めること、他の地域での同様の発見や、いろいろな学問分野からの検証や議論が必要だ」と述べています。
この発見が、私たちが考える「人類が天文観測を始めたきっかけ」を見直すきっかけになったことは確かですが、この石盤が本当にどのような意味を持つのかを明らかにするためには、まだまだ多くの検証と研究が必要なのです。