セックス“未経験者”に共通する特徴
研究チームが40万人規模のデータを解析した結果、“未経験”の人々にはいくつかの特徴が浮かび上がりました。
まず未経験の人々は平均すると教育水準が高い傾向にありました。
また、飲酒や喫煙をする割合が少なく、いわゆる“健康的な生活習慣”を持つ人が多かったのです。
一方で、幸福感や「自分の人生に意味がある」という感覚は低めで、孤独や不安を感じやすい傾向が見られました。
心理と身体の特徴
心理的には、特に男性で「神経質」「孤独」「不幸せ」といった回答が多く、セックスの未経験が心の健康と強く関わっていることが分かりました。
身体的にも男性では握力や筋肉量が少ない傾向があり、こうした要素がパートナー形成の難しさと結びつく可能性が示唆されています。
さらに「子どもの頃から眼鏡を使っていた」人が多く、こうした外見の特徴が思春期の人間関係に影響した可能性も考えられます。
地域環境とのつながり
居住地の環境も無関係ではありませんでした。
男性の場合、女性が少ない地域に住む人ほど未経験である割合が高く、さらに所得格差の大きい地域では男女ともに未経験率が高いことが示されました。
つまり、個人の性格や行動だけでなく、社会の構造そのものもセックスの経験率に影響している可能性が考えられます。
遺伝的な要因と進化の視点
今回の研究では遺伝子の影響も調べられました。
その結果、未経験という特徴の14〜17%程度はSNP遺伝率で説明できることが示されました。
ただし、これはセックスを未経験に繋がる「特定の遺伝的要因」があるという単純な話ではありません。実際には、体質や性格に関わる数えきれないほど多くの遺伝的要素が少しずつ影響し合い、その積み重ねが「未経験」の傾向につながっていると考えられます。
さらに分析では、未経験の人に関連する遺伝的特徴が、学歴の高さや知的能力、あるいは収入や職業といった社会経済的な地位に関連する遺伝的傾向と重なることも分かりました。つまり「セックス未経験」と関連する遺伝的要因は、彼らの他の特徴の一致とも関わっている可能性が考えられます。
ただし、こうした遺伝的な結果はあくまで小さな差にすぎず、個人の将来や行動を最初から予測できるレベルのものではないと研究チームは述べています。
さらに研究チームは、今回の研究報告とは別に進めている古代DNAの解析から、セックス未経験に関連する遺伝的特徴が過去1万2000年の間に少しずつ減少してきた可能性を示す結果も得ていると報告しています。
これは進化的にこの遺伝的特徴が現在進行系で淘汰されつつある可能性を示唆します。そのため大規模調査でも1%程度の人にしか見られないと解釈することができるかもしれません。
まだ研究中の経過報告ですが、セックス経験の有無が進化や生殖成功と密接に関わってきたことを裏付ける興味深い知見となるかもしれません。
とはいえ、ここまでの報告は全て、“因果関係”を証明するものではないという点に注意してください。
ここまで上げた特徴や遺伝的な要因が人生でセックス未経験になる原因となっているのか、あるいは第三の要因が両方を引き起こしているのかは、この研究からは断定できません。
また、この調査は西欧の大規模データに基づいているため、文化や社会が異なる地域、たとえば日本やアジアなどにそのまま当てはめることはできません。
研究者たちは今後、さまざまな文化圏で同様の調査を行う必要があると指摘しています。
また「性的欲求がない人(アセクシュアル)」と「望んでいたが経験できなかった人」とを分けて調べることも大きな課題です。
さらに、この研究はメンタルヘルスの支援や臨床的な理解を深める上でも重要な情報を提供します。
今回の成果は、“生涯セックス未経験”で過ごす人が単なる偶然や個人の選択によるものではなく、地域環境や遺伝など本人の意志とは別の様々な要素が絡み合った現象である可能性を示しました。
「セックスをしない」という少数派の生き方を科学的に見つめ直すことで、私たちは人間の多様なあり方をより深く理解できるのかもしれません。