恐竜みたい、でも恐竜じゃない

ワニという動物を知らない人はあまりいないでしょう。
その姿は多くの人が共通してイメージできるはずです。
水辺にどっしり伏せた、大きく広がった体、短く力強い脚、そして鋭い歯が並ぶ巨大な口。
まさに「水辺の捕食者」の典型的なイメージです。
ところが三畳紀の「ワニの親戚」たちには、そんな私たちの想像を見事に裏切る仲間がいました。
その中のひとつが、今回新しく報告された「ソンセラスクス・セドラス」です。
約2億1500万年前に生きていたこの生き物は、ワニ側の系統に属しながらも、私たちがよく知る「ワニらしい姿」からは大きく外れていました。
ソンセラスクスの見た目を一言でいうと、「ワニの親戚なのに、恐竜みたい」です。
まず驚くべきは口元でしょう。普通、ワニといえば鋭い歯をびっしりと並べ、獲物を捕まえるイメージがありますが、この動物には歯がありません。
歯はなく、あごの縁は鋭く、くちばしのような覆いがあった可能性があります。
また、ワニの目は頭の上方に小さくついているイメージがありますが、ソンセラスクスはそれとは全く異なり、目の穴がとても大きく、恐竜や鳥を思わせる顔つきをしていました。
さらに変なのは、体のバランスです。
現代のワニは、四本の脚がそれぞれしっかりと体を支えているため、脚の長さはだいたい揃っています。
ところがソンセラスクスの場合、後ろ足が明らかに前足よりも大きく発達しています。
研究者たちは、この体つきを見て、「後ろ足が主役の動物」と呼んでいます。
簡単に言えば、カンガルーのように前足は補助役で、後ろ足がメインになる体つきだったのです。
しかしなぜそんなことがわかったのでしょうか?
研究チームは、たくさんの化石を調べて、この疑問に答えようとしました。
まず、前脚と後脚の骨を大量に集め、その長さや太さを丁寧に測り比べてみました。
すると面白いことに、若い個体では前足と後ろ足の長さの差がそれほど大きくなく、近いバランスだったのです。
しかし大人に近づくにつれて、後ろ足の方がぐんぐんと成長し、前足を置き去りにするように伸びていきました。
最終的には、平均的な前足の上腕骨の長さは後ろ足の大腿骨の長さの約64%ほどしかなく、大人になるにつれてその差が広がっていったことがわかりました。
これは、ソンセラスクスが子どもの頃は四本足で動き回り、大人になるにつれて徐々に二本足で歩くことが増えていった可能性を示しています。
つまり、この動物は成長する過程で「歩き方」そのものが変わっていったかもしれないのです。
現代の動物で考えると少しピンとこないかもしれませんが、例えば人間の赤ちゃんは、最初は四つんばいで移動し、成長するにつれて二本足で立って歩き始めます。
ソンセラスクスの場合も似たような変化が、もっとずっと劇的な形で起きていたのかもしれません。
コラム:ワニと恐竜の違いとは?
「三畳紀のワニも三畳紀の恐竜も、どっちも爬虫類では?」という感想は、半分は正しいです。たしかに両方とも広い意味では爬虫類で、しかももっとしぼればどちらも「主竜類」という大きな仲間に入ります。ですが、その中ではすでにかなり早い段階で二つの大きな流れに分かれていました。ひとつは現代のワニにつながるワニ側、もうひとつは翼竜や恐竜、そして最終的には鳥につながる鳥側です。
しかも三畳紀のワニ側は、読者が思うよりずっと「ワニらしく」ありませんでした。現代のワニのように水辺で低く伏せる姿だけが基本形だったわけではなく、大型の捕食者もいれば、細身で素早いものもいて、後ろ足主体で走りそうなものまでいました。実際、後期三畳紀にはワニ側の主竜類のほうが、初期の恐竜よりも種類の多さでも体つきの多様さでも上回っていたという研究結果があります。恐竜は後から地球を代表する存在になりますが、三畳紀の時点ではまだ「最初から圧勝していた主役」ではなかったのです。
では、見た目や動きの面では何が違ったのでしょうか。大ざっぱに言えば、恐竜側はしだいに足を体の真下に置いて歩くことや、二本足で走ることに向いた方向へ進みやすくなりました。一方でワニ側も、三畳紀には同じように四方へ広がる姿勢から、より起き上がった姿勢へ向かっていました。ただしワニ側は、足首に回転の自由度が大きい「ワニ型」の構造をかなり残しており、全体としては恐竜側より四本足寄りで、走り方の幅もやや限られていたとみられます。恐竜側は、より安定した足首のつくりと多様な脚の使い方を広げていき、後にはそこから二本足の名手や巨大な四足草食恐竜まで出していきました。
ただし、ここで話は単純では終わりません。最新の研究では、鳥側のかなり初期の仲間でさえ、最初から「いかにも恐竜っぽい」足首や脚つきを完成させていたわけではなく、かなりワニ側に近い特徴を残していたことが分かっています。つまり三畳紀の世界では、ワニ側と恐竜側の境目は、今の私たちが思うほど見た目だけではきれいに分かれません。そのため、ワニ側なのに恐竜そっくりな姿へ進化した動物がいても不思議ではないのです。今回の論文の主役であるソンセラスクスは、まさにそこが面白いところで、系統はワニ側なのに、体つきはダチョウ型の恐竜を思わせます。最近の研究でも、こうしたワニ側の一部が恐竜に似た脚の形へ収れん進化していたことが指摘されています。
ここで面白いのは、これが「珍しい一匹の変わり者」からの推測ではないことです。
普通、化石研究というと、運よく完全に近い1体の骨格が見つかり、それをベースに研究が進むことが多いです。
しかしソンセラスクスの場合は全く違いました。
発掘された化石はとにかく大量で、なんと950点を超える骨が見つかり、その骨は少なくとも36匹もの個体に由来していると分かりました。
しかも興味深いことに、見つかった骨の多くはまだ若い個体のものでした。
つまりこの研究では、「立派に完成した姿」ではなく、「成長途中の姿」が大量に手に入ったのです。
そのため、「ソンセラスクスはどんな姿の動物だったか」だけでなく、「どのように育ち、どんなふうに体つきを変えていったか」まで踏み込んで考えることができました。
また、研究チームは「なぜこんなに若い個体ばかりがまとまって見つかったのか」についても興味を持っています。
そのひとつの仮説として、若い個体たちが群れのように一緒に行動していた可能性が考えられています。
(※乾燥が進んで水場が減ったことで同じ場所に集まりやすくなっていた可能性などもあります。三畳紀は過酷な時代なのであり得る話です(後述))
たとえば現代の草食動物の群れを思い浮かべてみると、ライオンなどの捕食者から身を守るために群れて行動することがあります。
ソンセラスクスたちも似たように、群れをつくって行動し、環境の厳しさを乗り越えていたのかもしれません。
次の章では過去の複数の研究から、なぜ三畳紀が特殊なのかを解説したいと思います。

























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