人工臓器に足りなかったもの

「たった1つの細胞から臓器を育てて、病気や事故で傷んだ本物と取り替える」というとSFの話に思えるかもしれません。
しかしこの「組織工学」と呼ばれる分野は現在、急速に発展しています。
心臓、肝臓、腎臓、胃、腸、皮膚、神経、さらには脳の一部まで、「オルガノイド」と呼ばれるミニ臓器や組織として育てることに成功しています。
ただ現在のところ、それらを体に入れても、そのままでは働いてくれません。
その主な理由は、栄養と酸素を配って回る血管の網が、通っていないからです。
私たちの体は、酸素や栄養を細胞のすみずみまで届けてくれる毛細血管によって支えられています。
この配送網がなければ、どんなに本物そっくりの人工臓器を作っても最後は壊死する、という悲しいことになります。
さらに毛細血管は恐ろしく細く、最も細いものは直径0.005mmと赤血球が一列縦隊でようやく通れるほどしかありません。
血管の代わりに極細のチューブを使えばいい、と思うかもしれませんが、毛細血管はただの配管ではありません。
届けるべきものは外へ通し、通すべきでないものは押しとどめるいわば関所のような働きをしています。
しかも炎症が起きれば緩んで免疫細胞を通し、脳では極端に締まって余計な物質の侵入を拒むという、場面に応じた選別機能まで備えています。
さらに周りの組織と「もっと血をよこせ」「ここはもう足りている」といったやりとりを交わし、傷口に向けて自分から血管を伸ばしていくこともできます。
このような生きている組織を、狙った場所に、狙った模様で張り巡らせるのは極めて困難でした。
細胞をインクのように発射する生体3Dプリンターを使えば、太い動脈や静脈くらいのサイズなら印刷できます。
しかし毛細血管のような髪の毛以下の管が複雑に絡み合ったネットワークとなると、まったく精度が足りません。
血管に「こっちに伸びろ」と命じる成長因子という物質をまいて、行き先を誘導してやる方法は毛細血管を作れますが、この物質は、すぐに拡散して薄まってしまううえ、分解も早くなっています。
そのため「ここに生えろ」という指示を正確に伝え続けることが、どうしてもできませんでした。
そこで今回研究者たちは、化学ではなく力学という、まったく別の道から毛細血管の制御を目指すことにしました。































