人工的に鋭く削られた「イチイの木」
クラクトンの槍が発見されたのは1911年のことです。
場所は、イギリス南東部エセックス州にある海辺の町、クラクトン・オン・シーでした。
発見者は、アマチュアの先史研究者として活動していたサミュエル・ハズルダイン・ウォーレンです。
ウォーレンは当時、海岸に露出していた更新世の地層を調査している際、炭酸カルシウムに覆われた細長い物体を発見しました。
発見直後には、シカの角の先端だと思われていたといいます。
しかし表面を調べると、それは動物の角ではなく、人類によって先端が鋭く加工された木であることが分かりました。
実際の画像がこちら。

素材はイチイです。
発見時の長さは38.7センチ、直径は3.9センチほどで、片方の端が鋭く尖り、もう片方は折れていました。
つまり、現在残っているのは、もともと長かった木製の柄の先端部分だけだと考えられます。
発掘された木は水分を大量に含んでいました。
その後の乾燥や保存処理によって縮み、現在の長さは約36.7センチとなり、発見時には直線的だった形も、わずかに湾曲しています。
1952年にはパラフィンワックスなどを使った硬化処理が行われましたが、その過程でも先端の形に変化が生じました。
現在見られる姿が、40万年前の形を完全に保っているわけではない点には注意が必要です。
それでも、表面には乾燥以前から存在していた平行な筋が確認されています。
これは、鋭い石器で木材を削ったときに残った加工痕だと考えられています。
製作者は単に枝を拾って使ったのではありません。
樹皮を取り除き、木の節を滑らかにし、先端を意図した形へ削り込んでいました。
復元実験では、遺跡から見つかる湾曲した刃を持つ石器を使うことで、クラクトンの槍に近い形を効率よく作れることが示されています。
硬いイチイの木から同様の槍を作るには、実験では約2時間45分を要しました。
柔らかく加工しやすい木ではなく、時間をかけてイチイを選んだことは、当時の人類が木材の性質を理解していた可能性を示します。
では、これを作ったのは誰だったのでしょうか。
候補としてはホモ・ハイデルベルゲンシスや初期のネアンデルタール人が挙げられます。
しかし、クラクトンの同じ地層から製作者を特定できる人類化石は見つかっていません。
そのため、どの人類種が作ったのかは、現時点では分からないというのが正確です。






























