BL作品の人気ジャンルを異なる文化圏で調べた真面目な研究が登場!
男性と男性が愛し合う様子を描くボーイズラブ(BL)は、世界中で人気になっており、BLを意味する若干古い表現である「やおい」も国際標準語として定着しつつあります。
海外においてもBL作品の愛好家の割合は大きく女性に偏っており、どうやら人類の女性にとって男性同士の密接な関係は、国や文化を問わず、非常に魅力的に映るもののようです。
しかしBLについて学問的に理解しようとする試みはまれであり、そもそもなぜ女性がBLに惹かれるのか、または好まれるジャンルと文化の関係など、基礎的な知識が不足していました。
そこで今回、リーズ大学の研究者たちは英語圏の1715人と中国語圏の1992人の参加者を対象にした調査を行い、BLの魅力の謎に迫ることにしました。
研究を主導したアンナ・マディル氏はBLの熱心なファンであり、特にライトなものより男性同士の激しくも濃厚なエロスが自分でも戸惑うほど好きであると述べています。
調査にあたっては、主としてどのジャンルが好みであるかが重点的に調べられました。
結果、英語圏と中国語圏の両方で最も好まれるジャンルが「束縛と支配(BDSM)」の概念のある作品であることが判明します。
ただ、ここで言う「束縛と支配」は一方的な肉体関係の強制を意味するものではありません。
BLにおける「束縛と支配」またはそれに付属する主従関係は、登場人物たちの親密さや愛情深さを支えるスパイスであり、時にはユーモアの演出にも使用される舞台装置となっているのです。
極論すれば、男性向けの作品で「ご主人様とメイド」の関係が登場人物の関係性を補強するように、BL作品でも「ご主人様×執事」あるいは「執事×ご主人様」の関係は2人の親密さを強化しているのです(BLにおいて表記の順序は重要です:前が攻めで後ろは受けを意味します)。
次いで人気だったのは、猫耳やキツネ尻尾を持つキャラクターが登場する「動物系の擬人化モノ」でした。
BLにおいて動物の擬人化は動物的な可愛らしさや動物的な情熱(主に性欲)を表現するためのツールとなっており登場人物たちの関係性の演出や物語の展開に用いられています。
そして3番目に人気だったジャンルは登場人物が未成年である「未成年モノ」でした。
若い2人による初々しい恋愛、あるいは刺激的な年の差恋愛は文化が違っても人気のジャンルであるようです。
ただ「未成年」の概念は文化圏によって異なっており、英語圏の場合は性行為の同意能力がある(合法)とされているのは16~18歳である一方、中国語圏では低くなる傾向があり、香港と台湾では16歳、中国本土においては14歳で性行為の同意能力があるとされ性行為が合法となっています。
なお好みが一致するのは上位ジャンルだけではありませんでした。
「緊縛」「乱交」「ロボット」「大人のオモチャ」などマニアックな要素を含むBL作品の人気は英語圏・中国語圏ともに下位に留まっていました。
一方で、英語圏と中国語圏で大きく人気が異なるジャンルもありました。
特に大きく違っていたのは「レイプシチュエーション」の人気でした。
中国語圏において「レイプ」は人気第1位の「束縛と支配」のジャンルに内包されており、魅力が高いシチュエーションとなっていました。
英語圏でも「レイプ」は人気のジャンルでしたが「束縛と支配」の1形態(つまり親密さを増すための方法)としては認識されておらず、魅力は限定的となっていました。
研究者たちはレイプに対する文化の価値観の違いがジャンルの好みに影響したと考えています。
なおBL作品で描かれるレイプは物語の進行に必要な展開として描かれることが多く、レイプが描かれているBL作品を読んでも女性が現実世界での影響はまったくないと過去の研究では報告されています。
また「触手プレイ」に対する評価も2つの文化圏で大きく異なっていました。
中国語圏では、触手を用いたプレイが一定の人気を誇っていたものの、英語圏では触手プレイは不人気でした。
研究者たちは英語圏では多くの国でタコを食べる習慣がなく「悪魔の魚」として嫌悪の対象になっていることが原因の1つであると推測しています。
あるいは、日本のサブカルチャーの影響を古くから受けていた中国語圏では、触手プレイに対する免疫があったのかもしれません。
さらに英語圏と中国語圏ではBL作品の購買層にも若干の違いがありました。
BL作品を好んで読む男性の割合は、英語圏では16%なのに対して、中国語圏では男性の割合は11%になっていました。
また全体における非異性愛者(同性愛者など)の割合は英語圏では69%に及んだのに対して、中国語圏では34%に留まっていました。
この結果は、中国語圏では英語圏にくらべて、よりカジュアルにBL作品を楽しんでいる人が多い事を示します。