報酬を前にした待ち時間は「日常の習慣」によって決まる?
1つ目の実験は、お菓子を目の前にしたときの待ち時間を測る「食べ物条件」です。
この条件では、日本のような食卓文化が一般的でないアメリカの子どもにおいて、待ち時間が短くなると予想されます。
アメリカにも”食前の祈り”はありますが、あれはクリスチャン(キリスト教徒)に特有の習慣であって、全員がしているわけではありません。
しかし日本では、基本的にどの地域でも食前に「いただきます」を唱えています。
もう1つは、ラッピングされたプレゼントを前にしたときの待ち時間を測る「ギフト条件」です。
この条件では逆に、アメリカの子どもは、プレゼントをもらってから開けるまでに「待つ」経験を多くしています。
たとえば、海外の映画でクリスマスツリーの下にプレゼントがたくさん並んでいるシーンを見ることがあります。
米国などではクリスマスプレゼントは何日も前から用意され、クリスマス当日まで開けるのを待つのが通例です。
また誕生日プレゼントもパーティーが終わるまで開けないなどの習慣も見られます。
反対に、日本では、プレゼントをもらうとすぐ開封するのが普通です。
今回の研究は、このような文化の違いに応じた条件で待ち時間に違いは出るかが調査されたのです。
参加者の子どもたちは、食べ物条件かギフト条件のいずれかに割り当てられ、テストを受けました。
どちらの条件でも、実験者が退室してから15分待てば、お菓子かプレゼントがもう1つ追加されます。
テストの結果は、研究チームの事前の予想を見事に的中させるものでした。
日本の子どもたちは、ギフト条件では約半数が5分以下しか待てなかったのに対し、食べ物条件では6割近くが15分待つことに成功したのです。
一方で、アメリカの子どもたちは、食べ物条件では約半数が4分以下しか待てなかったのに対し、ギフト条件では半数以上が15分待つという結果となりました。
この結果から、両国に特有の「待つ」文化は、子どもたちの満足遅延に大きく影響すると結論できます。
もちろん、実験における子どもの待ち時間には、後で得られる大きな報酬を見越して、今すぐ得られる小さな報酬を我慢するという、個々人に備わった「認知能力」も関係しているでしょう。
しかし、大きな要因として、その国の文化によって蓄積された普段の習慣が強く関与していることは間違いないようです。
このことから、研究チームは「子どもを取り巻く環境を教育・福祉のなかでどう形成してゆくかが、子どもの満足遅延にも大きな影響力を持つようになる」と考えています。
チームは今後、子どもの満足遅延の個人差や発達差が、将来的にどんな重要な意味を持つのかという長期的な視点で調査を進める予定です。