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幼少期の虐待がもたらす悲惨な影響とは / Credit:Canva
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幼少期の虐待がもたらす残酷な影響が判明【重要な脳領域が小さいまま】

2025.05.09 06:30:53 Friday

幼少期に虐待を経験した人は決して少なくありません。

では、そんな体験は脳にどんな影響を与えるのでしょうか。

ブラジルのサンパウロ大学(USP)の研究チームは、子どもの虐待経験と脳の発達、とりわけ「記憶」や「感情」を司る海馬との関係を、思春期に至るまで長期的に追跡するという調査を行いました。

その結果、虐待を経験した子どもは、右側の海馬の容積が成長全体を通して小さい傾向を示し、その差は思春期まで持続することが明らかになったのです。

研究の詳細は、2025年1月8日に『Psychological Medicine』誌に掲載されました。

Maltreatment in childhood linked to smaller hippocampus volume through adolescence https://www.psypost.org/maltreatment-in-childhood-linked-to-smaller-hippocampus-volume-through-adolescence/
Childhood maltreatment and the structural development of hippocampus across childhood and adolescence https://doi.org/10.1017/S0033291724001636

児童虐待は「成長過程の脳」にどんな悪影響を及ぼすのか調査

「虐待は心の傷を残す」──これは一般的に知られている事実です。

しかし、その傷がのかたちにまで刻まれている可能性があると聞いたら、どう感じるでしょうか?

今回の研究の焦点となったのは、「海馬」という脳構造です。

海馬は、記憶の形成や感情の調節、ストレス応答などに深く関わる脳の部位であり、うつ病PTSDといった精神疾患との関連が強く指摘されています。

特に、慢性的なストレスやトラウマによって海馬が萎縮することが、成人の脳で報告されてきました。

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幼少期の虐待は子供に様々な悪影響をもたらす / Credit:Canva

しかし、「子どもの脳」ではどうなのでしょうか?

これまでの研究の多くは断面的な「スナップショット」型であり、成長とともにどのような経過をたどるのか、長期的な視点で捉えた研究はごくわずかでした。

さらに、ほとんどのデータが欧米の高所得国に偏っており、世界人口の大半を占める低中所得国での脳発達に関する知見は、圧倒的に不足していました。

このような背景のもと、ブラジルの研究チームは「子ども時代の虐待が、成長とともに脳の海馬にどのような影響を及ぼすのか」を明らかにするべく、画期的な縦断研究をスタートさせました。

研究では、2009年から2019年にかけて、ブラジルのサンパウロ市とポルトアレグレ市の2都市から集められた6〜12歳の子ども795名を対象に、最大3回(ベースライン、3年後、6年後)の脳MRIスキャンを実施し、各時点でのデータから縦断的な分析を行いました。

虐待歴の評価には、親と子ども双方へのインタビューが用いられ、身体的虐待、性的虐待、感情的虐待、育児放棄(ネグレクト)の4種類について調査が行われました。

そして得られた回答を因子分析にかけ、親と子どもの報告を統合した「虐待レベルのスコア」を算出。

その上で、参加者を「高虐待群」と「低虐待群」に分類しました。

加えて、MRI画像から左右の海馬の容積を算出し、虐待経験の有無が脳の構造に与える影響を、年齢や性別、抑うつ症状の有無、さらには海馬の遺伝的リスクなどを加味して解析するという、非常に緻密なモデルが構築されました。

では、この研究の結果は何を示すのでしょうか。

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