陽子に新たな素粒子が含まれている可能性が浮上!
物理学の教科書には、上の図のように、陽子は3個のクォーク(アップ2個・ダウン1個)がグルーオンによって結び付けられた状態として記されています。
しかし実は、物理学者たちは何十年も前から、陽子の内部にはチャームクォークと反チャームクォークと呼ばれる別の素粒子ペアが存在しており、陽子の運動量や質量の一部を担っているかもしれないと、疑っていました。
ですが、この仮説(陽子にチャームクォークのペアが含まれること)を実験的に確かめるのは、極めて困難でした。
陽子にどんな素粒子が含まれているかを確かめるには、衝突実験によって陽子を砕き、飛び散った素粒子を観測する必要があります。
しかし厄介なことに、小さなサイズの世界では、陽子に含まれている素粒子と飛び散った素粒子が一致するとは限りません。
私達の住む宇宙を極めて小さなサイズで観測すると、真空から素粒子が対生成されては対消滅していく様子がみられます。
特に高エネルギーでの衝突実験を行った場合には、陽子の構成材料以外の多様な粒子が生成され、検出器で観測されることが知られています。
衝突によってどんな未知の粒子が生成されるかを調べるだけならば、それでも問題はありません。
しかし実際、衝突実験を行うと、高エネルギーに誘発された外因性のチャームクォークが空間から生成されることが知られています。
そうなると飛び散ったチャームクォークたちが元々、陽子内部に存在する要素(内在的要素)なのか、高エネルギー衝突の影響を受けて新たに陽子内部に現れた要素(外在的要素)なのかを判別するのは極めて困難でした。
そこで今回、NNPDFコラボレーションの研究者たちは、膨大な観測データの分析や複雑な判別を人工知能(ニューラルネット)を用いて分析することにしました。
実験に当たってはまず、実際に存在するかどうかを気にせず、あらゆるクォークによって構成される、仮想の陽子が想定され、実際に行われた50万件を超える衝突実験の結果や理論値との比較が行われました。
条件に縛られない学習を行うことで、人間の物理学者が思いつかないモデルを生成したり、人間の偏った測定の可能性を減らすことが可能になります。
するとニューラルネットは学習により、特定の陽子の構成要素が、どのような素粒子の飛び散り方をするのかを正確に予測することができるようになりました。
次に研究者たちは、学習済みのニューラルネットに対して、陽子にチャームクォークが内在的に含まれる場合と、そうでない場合のどちらが実験結果に即するかを尋ねてみました。
結果、陽子にチャームクォークが含まれている場合のほうが、さまざまな実験結果や理論値とつじつまが合うことが判明します。
一方で、陽子にチャームクォークが含まれない場合でも同じ実験結果になる可能性(間違っている可能性)は、わずか0.3%(σ3)となりました。
今回の研究を行った研究者の1人Rojo氏は「非常に異なる実験が、どれもチャームクォークがある条件のほうがつじつまが合うという結果に収束する事実は、私達の結果が確かなものであるという自信になる」と述べています。
では、陽子の中にチャームクォークがあるとして、影響度はどれほどのものだったのでしょうか?
それを理解するには、次の大きな矛盾点を超えなければなりません。