キリンはワインのように「おしっこテイスティング」を行うと判明!
意外かもしれませんが、キリンには犬や猫のようなわかりやすい発情期がありません。
キリンの排卵サイクルはおよそ2週間と短く、妊娠可能な時期を知らせる鳴き声や、サルたちのようにお尻を赤くするなどの視覚的な合図もないからです。
ではどうやってキリンのオスたちはメスが受け入れ可能かを知るのでしょうか?
謎を確かめるためカリフォルニア大学の研究者たちは、ナミビアのエトーシャ国立公園でキリンの群れを観察し続けました。
すると興味深いことに、オスがメスの性器を調べる過程が102回観察されました。
この過程は多くの場合、オスがメスの後をつけて、メスの尻を軽くたたくところから始まります。
このオスの奇妙な尻叩きにはメスの排尿を促す効果があるらしく、オスの尻叩きにメスが応じると、メスは5秒間ほどの短い排尿を行いました。
一方、メスの排尿中にオスは口先や舌をメスの尿に触れさせ、少量の尿を口腔内に取り込み、観察された内の半分にあたる51回のケースでフレーメン現象を誘発させることがわかりました。
フレーメン現象は哺乳類に起こる、臭いに反応して唇を引き上げる生理現象です。
この行動を行うと、フェロモンの感知を行う特殊な嗅覚器官「鋤鼻器(じょびき)」が空気に晒され、より効率的に臭い物質を嗅ぎ取ることが可能になります。
鋤鼻器は通常の臭いを感じ取る嗅覚器官とは異なるフェロモン感知に特化した器官であり、人間では退化してしまっていると考えられています。
(※人間の発生中の胎児では鼻軟骨の両側に鋤鼻器がみられます)
またオスはしばしば口に含んだメスの尿を、まるでワインのテイスティングをするかのように口をすぼめて口腔内を通過させ、ときには吐き出すこともありました。
そのため研究者たちは、オスキリンはメスキリンの尿をテイスティングをする要領で口腔内から鼻の鋤鼻器に送っていると結論しました。
(※メスが積極的な場合、オスのアプローチがあるまで尿を我慢することがあります。一方メスが受け入れてくれない場合、オスがアプローチしても尿が輩出されることはありません)
しかし、尿に含まれるフェロモンを感知するだけならば、わざわざ口に含む必要はないはずです。
実際、犬など他の哺乳類ではメスの発情状態を柱や地面にかけられた尿から嗅ぎ取ることが可能です。
この点について研究者たちは、キリンのフェロモン感知能力や体格が原因であると述べています。
一般的な哺乳類の鋤鼻器官は鼻と口のつながりが顕著ですが、キリンの場合は鼻とのつながりが限定的であり、口から鼻に抜ける通路をとる必要があると考えられます。
また言うまでもなくキリンの特徴はその高い背にありますが、非常に高く安全な位置に存在している頭部を、低い位置に下ろすのは手間がかかるだけでなく危険でもあります。
そのためキリンのオスは、尿の臭いを嗅ぐために排尿の瞬間を狙うしかなく、結果として「今すぐ排尿してください」とメスに伝えるようになったのだろうと研究者たちは述べています。
今回の研究ではキリンたちの奇妙な性生活に加えて、キリンたちの骨を噛む習慣と殺された仲間の葬式、そして大きな鳴き声についても報告されました。
これまでの研究でもキリンたちが仲間や他の動物の骨を噛むことが知られていましたが、その頻度は低く珍しい習慣だと考えられていました。
しかし今回の研究ではキリンたちは予想よりも遥かに頻繁に骨を噛む動作が確認されており、いくつかのケースでは無理に加え込んだ結果、口の中から骨が取れなくなってしまったことが報告されています。
キリンが積極的に骨を噛む理由は謎ですが、他の草食動物の研究では骨を噛むことで不足しているカルシウムを摂取していると報告されています。
また観察期間中には、ライオンに殺されてしまった仲間の死骸を、キリンをたちが頻繁に調べにくる様子が目撃されました。
そしてそのうち若いオスの1匹は死骸から足の骨を拾い上げる様子が確認されました。
さらに今回の研究では、キリンの大きな鳴き声が記録されました。
かつてキリンは鳴かないと考えられていましたが、近年の研究によって唸り声をあげたり、口笛を吹いたり、夜中に不気味な鼻歌を歌ったりすることが報告されています。
調査ではキリンのオスが大きな声をあげると、周囲のキリンたちが離れていく様子が確認されており、キリンたちの警告を知らせる声だった可能性が指摘されました。
現在、キリンの数は急激に減少しており2016年に行われた調査では、その数が30年間で40%減少したことが明らかになっています。
現在5種類存在するキリンのうち、3種類が絶滅危惧種です。
キリンは多くの人たちが子供の頃から慣れ親しんだ動物園の人気者ですが、彼らについてはまだまだわかっていないことがたくさんあります。
研究者たちはキリンたちの保全のため、そのユニークな外見以外へも興味を向けてほしいと述べています。