小学生が「NASAも知らない」宇宙環境で有毒化する薬があることを証明
宇宙生活を送る宇宙飛行士たちにとって、医薬品は非常に重要な存在です。
地球に戻る手段が限られている宇宙飛行士たちは、具合が悪くなった場合でも、手持ちの医薬品で対処するしかないからです。
中でもアナフラキシーショックは発作の予想ができず、発症した場合は即座の対応が必要となります。
アナフィラキシーショックは極めて短い時間で全身に現れるアレルギー症状であり、適切な処置がなければ血管から大量の水分が漏れ出して低血圧や意識障害を引き起こし、死に至ることもある危険な状態を引き起こします。
ただ幸いなことに、アナフィラキシーショックには「エピペン」と呼ばれる治療薬が存在します。
エピペンの主成分アドレナリン(エピネフリン)には血管からの水の漏れを減らし、血圧を高めるなどアナフィラキシーショック症状と逆の作用を体にもたらすことができるからです。
そのためもし宇宙飛行士がアナフィラキシーショックを起こした場合でも、エピペンは有効な治療薬であると考えられていました。
しかしセント・ブラザー・アンドレ小学校に通う9~12歳の「ギフテッド」小学生たちは、地球で作られた薬が宇宙空間で変性する可能性に目をつけました。
(※ギフテッドとは平均よりも著しく高い知能を有する子供たちを示します)
その根拠は宇宙放射線の存在でした。
宇宙空間では宇宙線と呼ばれる高エネルギーの放射線が飛び交っており、長期滞在する宇宙飛行士のDNAに損傷を与えることが知られています。
これはDNA以外にもさまざまな物質の性質に影響を与える可能性があります。
そのためギフテッドの小学生たちは「放射線が命中した医薬品は組成が変化して効果を失ったり、毒性を持つ物質に変化する可能性がある」と仮説を立て実験を行うことにしました。
彼らは特にアドレナリンの分子構造に対する宇宙放射線の影響に興味を持っており、純粋なアドレナリン溶液とエピペン溶液が用意され、NASAがミッションで使用する高高度気球とロケットに搭載されました。
そしてサンプルが地表に帰還すると「ガスクロマトグラフィー質量分析」が行われ、宇宙線がそれぞれの溶液に起こした変化を調べました。
すると、宇宙に送られたアドレナリンの純度が87%に低下しており、残りの13%は毒性の高い安息香酸誘導体に変化していることが判明しました。
(人間の体内にもアドレナリンは存在しますが、水分や血液、細胞などに囲まれているため純粋な溶液とは条件が異なります)
この結果から小学生たちは、宇宙放射線によってアドレナリンが分解し、毒性のある物質が生成されたと述べ、既存の治療薬「エピペン」が宇宙では役に立たなくなると結論しました。
子供たちの研究に協力したオタワ大学のポール・メイヤー教授は「今回の発見は宇宙放射線が医薬品に与える影響を理解するのに役立つだけでなく、宇宙飛行士や宇宙旅行者の安全に現実的な恩恵を与えるものだ」と述べました。
もしこの発見がなかったら、最悪アナフィラキシーショックに陥った宇宙飛行士が変性した毒性を持つエピペンを使用していた可能性もあります。
なお現在、小学生たちは宇宙放射線からエピペンを守るための保護カプセルの設計を行っているとのこと。
もしカプセルの設計が上手くいけば、今後宇宙に打ち上げられた医薬品は全て、そのカプセルに入れられることになるかもしれません。