甘いものを目にするだけで脳がドーパミン系を活性化
高脂肪・高糖分のジャンクフードは、非常に極端な味付けと量産プロセスで作られた自然には存在しない人工的な食べ物です。
こうした食べ物は、自然の食べ物とは異なる影響を人間に与える可能性があります。
今回の研究チームは「ハイカロリーな食品を食べることで、脳がその味の嗜好性を学習するのではないか」と考えます。
実際、マウスを使った過去の実験では、高脂肪・高糖分の食品を与えるとドーパミンの神経回路が再配線され、過食につながることが示されていました。
そこでチームは人間でも同じことが起きるかを検証するため、49人の健康な男女を対象に実験を開始。
参加者に喫煙者はおらず、日常的に薬を服用している人もなく、肥満もいません。
実験では参加者を2つのグループに分けて、一方に高脂肪・高糖分のヨーグルトを1日2回、8週間にわたって与え、もう一方には低脂肪・低糖分のヨーグルトを与えます。
それ以外は両グループともいつも通りの食生活を続けてもらいました。
実験前と実験中には、参加者の脳活動や体重、血圧、血糖値などを測定しています。
そして8週間後、参加者に高脂肪・高糖分のミルクセーキを飲んでもらいながら、脳のMRIスキャンを行いました。
その結果、高脂肪・高糖分のヨーグルトを食べ続けたグループでのみ、脳内のドーパミン系が活発化していたのです。
ドーパミン系はやる気や満足感、達成感を司る領域であり、そこが活性化するということは、脳が無意識のうちに高脂肪・高糖分の食品を好むようになったことを意味します。
このような変化は低脂肪・低糖分のグループには見られませんでした。
さらに低脂肪のプリンと低糖分のリンゴジュースを与えて、味の好みや嗜好性を評価してもらったところ、高脂肪・高糖分のヨーグルトを食べたグループは、味に物足りなさを感じ、低脂肪・低糖分の食品への嗜好性が落ちていたのです。
対照的に、もう一方のグループでは実験前と評価は変わっていません。
以上の結果をまとめると、私たちが高脂肪・高糖分のジャンクフードに抗えなくなる仕組みはこうです。
高脂肪・高糖分の食品を食べると脳がその嗜好性を学習
↓
神経回路が再配線され、食品を目の前にするだけでドーパミン系が活性化
↓
ドーパミンの分泌により無意識に脂肪や糖分の豊富な食品を好むようになり、そうでない食品には魅力を感じなくなる
他方で、実験期間中の参加者の体重や血圧、血糖値、コレステロールの数値などはグループ間で変化がありませんでした。
ただし高脂肪・高糖分の食品への嗜好性が長期にわたって持続すると、過食や体重増加、生活習慣病のリスクを高める危険性があります。
脳が脂肪分や糖分の多い食品を強く欲するのは、生物である以上仕方のないことだと研究者も話します。
脂肪分、炭水化物(糖分)の豊富な食品はエネルギー密度が高く、生物の生命維持において非常に有利となります。
そのためすべての生物は、より高い活動エネルギーを得るために、これらの食品を求めます。
蜂のような小さな昆虫が非常にパワフルなのは花の蜜という高糖分の食品を取っているためですし、蟻なども甘いものに集ります。
しかし、結局はそうした生物の作用が、食品企業が商品を企画する際、過剰に高脂肪・高糖分の食品を作るよう誘導してしまいました。
今回の結果からも示されている事実ですが、高脂肪・高糖分の食品を食べれば人はその食べ物をより強く求めるようになり、低脂肪・低糖分の食品に魅力を感じなくなってしまいます。
そうなれば企業が人々の健康そっちのけで高脂肪・高糖分のジャンクフード販売を強く推進するようになるのは仕方のない流れでしょう。
今回の研究は、ジャンクフードの魅力が脳の配線さえ変化させてしまう強力なものであることを示しています。
健康を害する食品に取り憑かれてしまうことは非常に危険なことです。
そのため子育てをする親が、できる限り子供をジャンクフードから遠ざけることは、重要なことかもしれません。
そして私たち自身も、脳の奥底に眠る”ハイカロリー食材への欲望”を目覚めさせないよう、日頃から注意すべきでしょう。
ちょっと家の近所を散歩するだけでも、コンビニやファストフード店など、誘惑の魔の手はそこここに乱立しています。
しかし、ジャンクフードが食べたいという欲求は、脳のバグなのだということをきちんと認識しなければなりません。