水中生活100日ミッションがスタート
今回ディトゥリ氏は、自らが実験対象となり、長期の水中生活を送ることにしました。
アメリカ唯一の水中ホテル「ジュールス・アンダーシー・ロッジ」で、100日間生活することにしたのです。
この施設は、フロリダ州の細い列島フロリダキーズ付近の海面下約10mに位置し、55m2のスペースがあります。
水中ホテルと言っても、滞在者は絶えず水に接するわけではありません。
施設自体がコップを逆さにして海に沈めたような構造であり、居住空間の上部には空気のポケットが存在するのです。
ホテルに出入りするには、10mほど潜水する必要がありますが、普段は空気のある場所で生活できます。
しかし同じ空間でも、このホテルと潜水艦では環境が大きく異なります。
通常、潜水艦の内部は気圧が調整されているため、何百m潜ろうと、人体への大きな影響はありません。
ところがこのホテルでは、そのような気圧調節がなされていないため、水深10mで海面の2倍の気圧が滞在者に絶えず加わります。
そしてこの100日生活ミッションは、2023年3月1日に始まっており、2023年4月現在も続いています。
現在の水中生活の世界記録は73日間(2014年)であるため、このミッションを完遂した時には、世界新記録が誕生することになります。
ディトゥリ氏はTwitterやYouTubeで近況を伝えており、3月末には専門家の健康診断を受けたり、健康を維持するためにトレーニングしたりする映像が投稿されました。
30日以上経過した現在では、特に問題もなく元気そうな表情を見せています。
また4月1日のエイプリルフールでは、「プレスリリース:水中で生活する研究者にエラと水かきが発達」という写真付きのネタを投稿しました。
Press Release: April 1, 2023
Mutations Discovered by Researcher Living Underwater
Dr. Joseph Dituri, the aquanaut researcher living underwater for 100 days revealed the development of “pre-gills” on his neck and webbing between his fingers," says his doctor
~Dr. Patrick Duffy pic.twitter.com/RlM4gBGu4F— Joseph Dituri, Ph.D. (@drdeepsea) April 1, 2023
水深30m以上の気圧下では、空気中の窒素が肺の壁を越えて血液中に溶け込み、「窒素酔い(ナルコシス)」と呼ばれる酔ったような状態を生じさせます。
今回の実験は水面下10mで行われているため、そのような状態になることはありませんが、長期の滞在が人体に悪影響を及ぼさないか慎重に観察する必要があるでしょう。
そのうちの1つは、日光(紫外線)を浴びて生成される「ビタミンD」の不足です。
ディトゥリ氏は、ビタミンD不足による免疫機能の低下を生じさせないため、食品やサプリメント、またUVランプなどでビタミンDを補充しています。
それでも今後の体調の変化には敏感でなければいけません。
そして当初の目的である「高気圧環境での長期滞在」が、外傷性脳損傷の治療に役立つのかどうかも、今後の観察と研究で明らかになるでしょう。
またディトゥリ氏は、「高気圧環境では細胞が5日間で2倍になった」という過去の発見から、「今回の実験は、人間の寿命を延ばし、加齢に伴う病気を予防する可能性を秘めている」とも主張しています。
人類で初めて水中で100日間生活するディトゥリ氏は、果たして彼の望む通り「超人」となり、新たな治療法をもたらすのでしょうか。
彼の今後の報告に注目できます。