遠方宇宙での二重クエーサーは未発見だった
これまでの観測で、ほとんどの銀河の中心部には巨大な「超大質量ブラックホール」が存在することが分かっています。
超大質量ブラックホールの質量は、それが存在する銀河の性質と密接に関係することから、お互いが影響を及ぼしながら成長してきたと予想されています。
しかし、詳しい実態は明らかになっていませんでした。
今のところ、「銀河やブラックホールは互いに合体を繰り返しながら、巨大銀河や超大質量ブラックホールに成長した」という説が有力です。
初期の宇宙には今よりも小規模な銀河が多く、それらが互いに合体を繰り返すことで巨大銀河へと成長していったと考えられています。
この仮説が正しければ、遠方宇宙(100億光年以上も先の遠い宇宙)には銀河同士の合体に付随する形で、近接する超大質量ブラックホールのペアが多数存在すると推定されます。
加えて、活発な星生成を行う活動銀河の中心ブラックホールは、非常に強く光り輝く天体「クエーサー」として観測されます。
銀河の中心にある巨大なブラックホールが周囲の塵やガスが吸い込むとき、それらはブラックホールの周りを回りながら、降着する形で円盤を作ります。
この降着円盤では、塵やガス同士の摩擦によって膨大な熱が発生し、プラズマ化することで強烈な電磁波を放射します。
このため星のもととなる塵やガスなどの物質が豊富で、回転速度の高いブラックホールでは非常に明るく輝く降着円盤が形成されることになります。
これがクエーサーの正体です。
クエーサーは宇宙の密度が高かった約100億光年先の領域に最も多く存在することが分かっています。
このような時代の宇宙では、銀河同士の合体も頻繁に起きていたと予想されており、当然クエーサー同士の衝突・合体も起きていたと予想されています。
ところが現時点では観測機器の性能の限界もあり、この時代の二重クエーサーはまだ発見されていませんでした。
これまでにも二重クエーサーの発見自体は報告されていますが、非常に数は少なくまた近傍の銀河に限られています。
つまりクエーサーの活動が最も盛んだった100億年以上前の宇宙にある二重クエーサーはまだ一つも見つかっていないのです。
もし100億光年という遠方宇宙で二重クエーサーが観測できれば、銀河やブラックホールの成長過程を直接捉えた貴重な事例となるでしょう。
ついに遠方宇宙で真の二重クエーサーを発見!
そして研究チームはついに、ふたご座の方向に約108億光年離れた遠方宇宙で、近接した「二重クエーサー」の発見に成功しました。
クエーサー自体の発見も珍しいため、二重クエーサーの発見は極めて稀です。
実は「J0749+2255」と命名されたこの天体は、以前に二重クエーサーの候補としてチームがすでに報告していたものでした。
ただし、ハッブル宇宙望遠鏡、ケック望遠鏡、ジェミニ望遠鏡などのデータを用いた波長解析により、「銀河同士の合体に付随した真の二重クエーサーである」ことが確認されたのは今回が初めてです。
また画像では、銀河と銀河が近づいたことで重力により天体の形状が変形する「潮汐相互作用」も確認されています。
2つのクエーサーの間の距離はたったの約1万光年しかなく、遠方宇宙でこれだけ距離が近く銀河同士が互いに影響を及ぼしている二重クエーサーは初めての発見例です。
一般的なブラックホールの質量は太陽の10倍ほどとされますが、この二重クエーサーのブラックホールはそれぞれ太陽質量の10億倍と推定されています。
理論上、巨大銀河は銀河同士の合体を繰り返す中で形成されるものであり、クエーサーの活動も銀河の合体によって誘発されると考えられています。
今回見つかった二重クエーサーはまさにこうした理論と合致する天体です。
通常の銀河の中心とは異なる、クエーサーが点火する詳しい原理は現在も不明なため、今回の発見からはクエーサーと呼ばれる特殊な銀河核が点火する理由の解明にも近づけるかもしれません。
このように遠方宇宙にある天体を調べることで、銀河の合体が活発だった時代の宇宙の姿を知ることができるでしょう。
チームは今後、2021年12月に打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」を用いて、より高性能で効率的な二重クエーサーの追観測を続けていく予定です。