ゾウの食事メニューはバリエーション豊かだった
ゾウが植物の葉や種子、果実を食べる「草食動物」であることは誰もが知っています。
その一方で、彼らが毎日どんなものを食べているのかについては、ゾウの専門家ですら詳しく分かっていません。
研究主任のタイラー・カーツィネル(Tyler Kartzinel)氏は「動物学者でない人たちにそのことを話すと、とてもビックリする」と話します。
確かにゾウほどメジャーな動物であれば、いくら野生でも毎日の食事メニューくらいは完全に解明されていると思ってしまいますね。
しかしカーツィネル氏によると「野生のゾウを近くから観察するのが難しく危険であること、ゾウが長距離を移動すること、夜間や茂みの中で食事をすること、食べる餌が非常に小さいこと」などが原因で、食事メニューを正確に特定できないといいます。
そこで今回の研究では、遺伝学を駆使した最先端技術である「DNAメタバーコーディング」という手法を用いることにしました。
これはゾウから採取した糞便の生体サンプルを分析し、抽出したDNA断片の情報をバーコード化。
それを膨大にある既知の植物DNAのバーコード・ライブラリーと照合することで「ゾウが何を食べているか」を特定する技術です。
具体的には、東アフリカ・ケニアに生息するアフリカゾウの2グループを対象に、子供から大人まで各メンバーがどんな種類の植物を食べているかを調査しました。
その結果、各メンバーの食事メニューは、ある日に一緒に採餌した家族内でも、これまで想定されていた以上に大きく異なることが判明したのです。
対象としたグループ全体からは少なく見積もっても367種類の植物が検出され、1つの糞便サンプルからは最大で137種の植物DNAが見つかりました。
さらに並行して記録していた天候データと照らし合わせると、ゾウたちは雨が降ると地上の新鮮な草を多く食べ、雨の降らない乾燥した時期には木々の枝葉などをよく食べるようになっていたのです。
つまり、野生のゾウは毎日同じものばかり食べるのではなく、好みや天候に応じて柔軟にメニューを変えていることが分かりました。
これは例えば、お父さんはビールと癖の強い塩辛を食べて、子供たちは甘口のカレーを食べるように、私たちの家庭によく見られる習慣をゾウが実践している証拠かもしれません。
さらにカーツィネル氏は、今回の結果がゾウにまつわる長年の謎への解答にもなると指摘します。