なぜ古代人類の化石は宇宙に飛び立つことになったのか
バーガー氏は、これらの化石が宇宙に飛び立つことは「我々が先祖や古代の人類たちの貢献に感謝している証だ」との考えを示しています。
つまり、古代人類に対してのリスペクトが今回の化石の宇宙旅行に繋がっているようです。
息子のマシュー氏は、「これらの古代人類たちは生きている間に、驚くべき旅をするなんて想像できなかっただろう」と述べています。
確かにはるか古代に絶滅した人類が宇宙へ行く、というのはロマン溢れる試みだというのは理解できます。
しかし、彼らの主張はいささか無邪気すぎるというのが、多くの専門家たちの見解です。
実際に古代人類が宇宙旅行を理解できるはずもなく、バーガー氏とマシュー氏の発言を、多くの人類学者や他の専門家たちは批判しています。
これはバーガー氏のX(旧Twitter)投稿ですが、ここでも多くの批判が見受けられます。
Two important ancient human relatives packed and ready to go where no extinct hominins have gone before! #neverstopexploring! pic.twitter.com/rngRVQipef
— Lee R Berger (@LeeRberger) September 1, 2023
バーガー氏は「重要な古代人類が、これまでどの絶滅人類も足を踏み入れたことのない場所へ行くための準備ができています!」と嬉しそうに述べていますが、生物人類学者のアレッシオ・ヴェネツィアーノ氏は、Xで「この宇宙旅行を実施する科学的な意味はなく、古代人類への敬意もない」と述べており、またバーガー氏の化石に対する特権などについても問題を指摘しています。
ただ、すべての人が批判しているわけではなく、南アフリカ遺産庁(SAHRA)はこのミッションが「科学の普及と南アフリカの人類起源研究の国際的な評価の向上につながる」として、バーガー氏の宇宙飛行計画を承認しています。
そもそも、貴重な古代人類の化石を宇宙に飛ばすことは、事故が起きた場合などに今後の研究の機会を損失するため、NGなのでは?と思ってしまいますが、バーガー氏は、化石が幅広く研究され、何度も公に紹介されているため、これらの化石を宇宙に持っていくのは妥当であると主張しています。
浮かび上がる特権
ホモ・ナレディ以外のヒト科動物の化石は、その保存状態の悪さや数の少なさなどから、多くの場合、研究の対象とはなっていないのが現状です。
しかし、今回の化石の宇宙旅行に対する多くの批判の中で、アウストラロピテクス・セディバの化石のような貴重なものを自由に扱うことができる、特権的な立場を持つ人々の権利問題が浮かび上がっています。
化石を宇宙旅行に持って行ったのは、南アフリカの大富豪であるティモシー・ナッシュ氏という人物で、彼はバーガー氏と長い間の友人でもあります。
彼らはアウストラロピテクス・セディバの化石を発見した場所を含む多くの土地を所有しているため、前述したようにバーガー氏が貴重な化石を発見できたことに繋がっているのです。
さらに、ナッシュ氏は化石が見つかった土地を観光地として発展させたいと考えているようです。
多くの古人類学の研究者たちは、バーガー氏らが土地や化石を独占しているような状態であるため、彼らが現場での実際の状況や研究内容を、他の研究者たちに正確に報告していないのではないかと疑念を抱いています。
古代人類の化石が宇宙を旅するという試みは、ロマンがあることのようにも感じますが、そこには考古学研究が抱える難しい権利の問題の多くが隠れているようです。
また、特権を持つ人達が貴重な化石を自由に扱うことができる状態そのものに問題があるのかもしれません。
化石には宇宙旅行をさせるのではなく、博物館で私たちを時間旅行に連れて行くガイドをさせてほしいものです。