「誰かが後ろにいる…」は実験で再現できる
幽霊がいるかどうかの議論は置いておくとして、一人でいるはずの部屋に誰かの気配がする感覚は誰もが経験していることです。
こうした錯覚は統合失調症などの精神疾患をもつ患者によく見られるものですが、これまでの研究で、心身ともに健康な人々の多く(人口の5〜10%)も存在しないはずの人の姿を見たり、声を聞いた経験があると報告されています。
この錯覚を研究していたEPFLの認知神経科学チームは2014年、人々に「誰かが背後にいる気配」を誘発させる実験方法を発見しました。
この実験では、幻覚や幻聴を引き起こすことで知られるLSD(薬物)やフロートタンク(光や音が入らない感覚遮断チャンバー)は一切使いません。
その代わりに使用したのが「ロボット」です。
このロボットには前後左右に動くロッド(棒)が付いており、被験者は目隠しをした状態でそのロッドを動かします。
すると、その動きに連動して被験者の背後に置かれた別のロッドが同じ動きをして、被験者の背中に触れます。
前後のロッドの動きがシンクロしているときは特に何も起こりません。
ところが、0.5秒のタイムラグを付けて背後のロッドを動かすと、被験者は「後ろに自分以外の誰かがいるような錯覚」を起こし始めたのです。
その理由について研究主任のオラフ・ブランケ(Olaf Blanke)氏は「感覚のズレが原因だ」と説明します。
ここでは被験者のロッドの操作と背後にあるロッドの動きがズレているわけですが、このように手元の動きのイメージと実際の動きがズレることで、感覚に違和感が生じ、被験者のうちに別の何者かの存在を感じさせてしまうというのです。
こうした感覚のズレは日常生活でも見られ、激しい運動をしてひどく疲れたときや、大切な人を亡くして強い悲しみに打ちひしがれているときに起こりやすいといいます。
具体的なケースだと、登山家にこの錯覚がよく見られるそうです。
特に標高の高い雪山などに挑戦していると、厳しい寒さや空気の薄さ、肉体の疲労感によって、自分の体のイメージと実際の体の動きに感覚のズレが生じ、一人で登っているはずなのに背後にもう一人いる気配がはっきり感じられるという。
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そして同じEPFLの研究チームは今回、この実験セットを少し改良して、誰かがいる気配だけでなく「存在しないはずの声」が聞こえるかどうかを試してみました。