「存在しない声」を聞かせる実験に成功
チームは今回、同じ実験を2回独立して行いました。
両方とも24人の健康な一般男女が参加し、1回目は女性17人・男性7人・平均年齢25歳、2回目は女性13人・男性11人・平均年齢26歳で、全員がフランス語話者です。
過去に精神疾患や神経障害、聴覚障害と診断された人はいません。
実験では先と同じロボットを使い、被験者は目隠しをして前後のロボットの間に座ります。
ここではロッドの操作と動きがシンクロする条件と、ロッドの操作と動きに0.5秒のタイムラグがある条件を用意しました。
いずれでも同じように背後のロッドは操作に応じて被験者の背中にタッチします。
(ここでは前項の解説と同様にタイムラグがある条件では、背後に誰かの気配がする錯覚が確認されている)
そして実験中、被験者はヘッドホンを通して、ノイズの一種である「ピンクノイズ(ザーという強い雨や滝のような音)」を聞かされました。
さらにそのノイズの中に被験者自身の声か他人の声のいずれかを紛れ込ませます。紛れ込ませるのはフランス語の簡単な単語のみです。
ピンクノイズは約3.5秒間つづき、音声はノイズ開始の0.5〜2.5秒の間にランダムに発生させます。
つまり、この実験では「ロッドの動きがシンクロ・自分の声」「ロッドの動きがシンクロ・他人の声」「ロッドの動きにタイムラグ・自分の声」「ロッドの動きにタイムラグ・他人の声」の4パターンがあり、これをランダムに被験者に割り当てます。
また実験セッションは一人あたり63回行い、その中には「人の声が含まれないノイズだけの条件」もランダムに含まれます。
こちらはピンクノイズのサンプルです。(※ 音量に注意してご視聴ください)
そして実験終了後にアンケート調査をし、被験者が「人の音声が入っていないときにも声が聞こえたかどうか」を調べてみました。
その結果、面白いことに、ロッドの動きにタイムラグがあり、かつ他人の声がノイズに紛れ込む条件で参加していた被験者は、実際には誰の声も入っていないノイズに対し「人の声が聞こえた」と報告する割合が高くなっていたのです。
つまり、被験者は存在しないはずの幽霊のような声を聞いていたことになります。
この幻聴は、自分の声よりも他人の声を聞いたときに有意に見られました。
これはゲームの起動音楽など私たちが日常でもよく耳にする短いメロディーと、最初の一音が同じビープ音や雑音を聞いたとき頭の中で勝手にそのメロディーが再生される現象に似たものだと言えるでしょう。
そこに誰かの気配が加わることで、いない誰かの声を聞いたという錯覚が生じると考えられます。
以上の結果について、研究主任のパボ・オレピック(Pavo Orepic)氏は、脳がロッドのタイムラグにより発生した「背後の気配」とノイズ中に含まれたランダムな音程が何度も聞いた声の高さと結びついて、被験者に「存在しない誰かの声」を聞かせてしまった可能性があると述べています。
暗い夜道を歩いていてヒューと吹いた風が人の声に聞こえるのも、脳で似た現象が起きているせいかもしれません。